「たしかにオリンピックに対する意識は、プロとアマでは違うでしょう。それでも、錦織選手の発言を聞いて、石井選手のように違和感を覚えたアスリートは多いのではないでしょうか」とは、マイナースポーツも取材するスポーツ専門雑誌の編集者。

 錦織選手が《死人が出てまでも》と述べた5月10日、彼はローマで開催された『BNLイタリア国際』というテニスの国際大会に出場していたのだが、同日のイタリアでの新規感染者は5077人で死者は198人を記録。日本では前者が4938人で後者は75人(イタリア、日本ともにロイター通信調べ)と、彼が滞在したイタリアの方が“リスク”が高かったとも言える。

「錦織選手自身が滞在したイタリアでも、日本以上に死者が出ていたわけです。じゃあ、テニスも“死人が出てまで開催すべきではない”となる。彼はオリンピックの延期が決まった昨年も、早々と“よかったです”“ほっとしました”とツイッターを更新していました。

 彼にとっては五輪よりもグランドスラムの方が大事なのでしょう。考え方は選手それぞれなので、そこに文句はない。ただ、五輪を目指して4年間闘ってきた選手からすれば“あなたが言うことではない”と思ってしまうのもわかる。錦織選手の言葉は、五輪アスリートを代表するものではないのかと」(前出・スポーツ専門雑誌編集者)

 かつてはアマチュアの大会だった五輪に“プロフェッショナル”が参加したのは、ファン・アントニオ・サマランチ(元IOC会長)体制だった1992年のバルセロナ五輪でのこと。バスケットボールにおいて、マイケル・ジョーダンやマジック・ジョンソンらNBAのプロ選手たちが結成した“ドリームチーム”は強烈なインパクトを残した。

プロとアマの歴然たる収入格差

 以降、プロの出場が拡大された五輪。そもそも、プロフェッショナルと“アマチュア”の違いとは何なのだろうか。1980年代から夏・冬季五輪や多くのアスリートを取材してきたスポーツライターの増島みどり氏が解説する。

日本では多くの選手が、社員として給料と活動費の支援を受け、引退しても会社に残れる、実業団という日本独自の形で競技を続けてきました。今は、企業と契約を結ぶプロアスリートが増えており、彼らは確定申告の際、職業欄に、例えば、プロ陸上選手、などと記入します。海外から見ると、実業団選手もある意味でプロにうつるかもしれません」

2012年、ロンドン五輪後のパレードに参加したやり投げの村上幸史と、レスリングの吉田沙保里
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 プロとアマで違うのは収入面で見るとわかりやすい。例えば国内のプロスポーツで最も高給取りとされるプロ野球選手の平均年俸は4206万円で、Jリーガーは3218万円となっている。そして錦織圭選手はというと、アメリカメディアのスポーツ選手長者番付(2021年版)によると約29億円(年収)だ。

「一方で実業団に所属するアマ選手は競技にもよりますが約400万円と、一般サラリーマンと同額程度の収入であることも多く、レスリング金メダリストの吉田沙保里や伊調馨らトップアスリートであれば特別契約が交わされていたそう。それでも当時の総収入は1000万円から2000万円ほどではないでしょうか。

 五輪出場にも意欲を見せる楽天(ゴールデンイーグルス)の田中将大選手は、今年の年俸は推定9億円。ゴルフの松山選手も昨年は10億円以上稼いでいるでしょうし、4月に制した『マスターズ』の優勝賞金は2億円以上ですから、今年はさらに増えるでしょう。アマ選手も、五輪の結果次第では所属先からボーナスや報奨金が支払われるとはいえ、同じアスリートでも“格差”はあると思います」(スポーツマネジメント会社営業担当)