夢はハリウッド越え

 父子鷹の共演にも期待が高まるが、千葉は子どもたちの成長を喜ぶいっぽうで、現在の日本映画界に対しては危機感を覚えていると話す。

「先の『るろうに剣心』は、ゲームの世界にしか見えなかった(苦笑)。日本の時代劇が連綿と受け継いできた殺陣の力強さや美しさ、侍の魂が感じられるような所作があまりに少ない。

 たしかに動きは派手かもしれないが、重さやリアルさが足りないんです。また、これは昨今の邦画に言えることですが、いい脚本が少ないと感じています。脚本は、映画の心臓部。アメリカは脚本にお金も時間もかけますが、日本はそうではない」

 千葉は、親友であるクエンティン・タランティーノ監督の『キル・ビル』で、アクションディレクター(剣術指導)を担当し、主演のユマ・サーマンやルーシー・リューに指導を施している。世界を知る千葉真一だからこその日本映画界への苦言であり、提言だろう。

「殺陣(たて)師とアクション・ディレクターは違うんですね。殺陣師というのは、殺陣を作って、動き方をレクチャーする人。いっぽう、アクション・ディレクターというのは、脚本の役どころの立場や力量を考慮し、実際にどの程度の動きならリアリティーがあるかを見極め、殺陣師と役者の間に入る人です。

 例えば、『下っ端の同心だったらそんな殺陣は不自然だよね』という具合に、キャラクターや物語の前後の文脈を加味しながらアクションを提案する。ハリウッドのアクションというのは、こういったことが徹底されているんですね」

 ジャパンアクションクラブ (JAC)の創始者で、数々の俳優・スタントマンの育成をしてきた千葉は、“教えること”“育てること”の大切さを知り尽くしている。

ときには“真剣”を用いたことも

 演技とは何か──。その真意を伝えるために、ときには真剣を用いたこともあったという。

「『(志穂美)悦子、いいかい。これから、上段から刀を振り落とす殺陣をするよ。ただし、竹光(たけみつ)ではなく本身でいくからね。それを受けるんだよ』という具合に教えたこともありました。

 竹光で同じことをすると、きれいにさばくことができるんだけど、本身でやると、さすがの悦子も恐怖心から受けるのがやっとなわけです。受け止める際に、自然に首が動いてしまう。でも、それがリアルなんです。この違いがわかっているかどうかなんですよ、演技というのは。真田広之にしても、ある程度形ができていたから、今の活躍があるのだと思います」

 真田広之は、ここ日本では6月に公開されたばかりのハリウッドのアクション映画『モータルコンバット』に主演クラスで出演。すさまじい殺陣が、海外でも話題を呼んでいる。

「真田は最初のころからとても動くことができた。僕の後を継いで、ハリウッドに出ていかないといけないとずっと言っていた」

 そう愛弟子の活躍に目を細めつつ、「僕もあれくらいの歳にハリウッドに行きたかったんだよな」と悔しさをにじませる姿が、今なお現役であることを感じさせ、役者・千葉真一のすごみが、ひしひしと伝わってくる。

 とはいえ、“千葉イズム”は脈々と受け継がれている。子どもたちや真田広之だけではない。サニー千葉(海外での千葉の名義)から影響を受けたハリウッドスターも少なくない。