「いちばん大事なことは足腰が衰えないようにすること。最低限の筋肉をつけておくために、定期的に坂道を歩いたり、膝の周りの筋肉を落とさないように下半身の運動をするようにしてください。

 テレビを見ながらでもいいので、肩幅ほど足を広げて、スクワットの要領で腰を落とす。これを50回続けられるようになってほしい。慣れてきたら、これを3セット。これだけでまったく違います」

 千葉が口にすると、説得力十分。これまで演じてきた当たり役・柳生十兵衛や服部半蔵から助言されているようで、思わず「御意」と答えたくなる。

息子は成長した。日本一だと思う

 いっぽうで、「気持ちとして、まだまだ演技や作品を追求したいけど、肉体がついてこない」と吐露する。

「60代までは、まだまだ若者に負けないくらいのスピードができていた。しかし、今ははっきりと肉体が衰えていることを自覚している。周りの人は、僕の身体を見て『60代にしか見えない』と言うけど、60歳のときの僕はもっとすごかったよ(笑)」

 そう語る姿は、まるで武芸を極めた剣豪が、円熟の老侍となり悟っているかのよう。千葉は、「長い間、どうして僕を越える動きをする日本人の役者が出てこないんだろうと思っていた」とポツリと話し出す。

「長男の(新田)真剣佑が出演している『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』を見るために、映画館に行ったんですよ。手前味噌ですけど、日本であんなに動ける役者はいないと思った。いい動きだった。あれならお金を取れる」

 真剣佑と、次男・眞栄田郷敦がデビューする際に、役者としての心構えをアドバイスした程度で、親子間で演劇論を交わすといったことはしないそうだ。彼らも、父に教えを乞うことはしないという。

「自分なりに考えて勉強してるんだなと伝わってきましたね」。父の視点でやさしく言葉を紡いだ後、「今の真剣佑の動きにはついていけない。初めて、『俺を越えたな』と思える役者が出てきた」と打ち明ける。

 役者(ライバル)の目になって、どこかくやしさをにじませながらも、「越されましたね」とうれしそうに繰り返す姿は、世界を虜にした千葉イズムが未来に継承されることを意味する。映画ファンなら、期待せずにはいられない。

 '19年、千葉は自身の芸能生活60周年記念祝賀会の際に、3人の子どもたちに自筆の格言を授けた。長女の真瀬樹里には、「初心不可忘(初心忘るべからず)」という言葉を。長男・真剣佑には、世阿弥の演技論として知られる『風姿花伝』に記されている「秘すれば花」。そして、次男・郷敦には同じく『風姿花伝』から「離見の見」という言葉を。

「真剣佑、お前は花であるべきだ、ずっとずっと花であれと。役者は花がなければいけない。花とは何なのかということを、自分の中で考えてほしい。僕は役者というのは読解力が何より大切だと思っています。ですから、授けた言葉に対して3人がそれぞれ自分たちで理解し、噛みしめていってくれたら」