トラブルメーカーとの11年間の結婚生活

「主人が逮捕されたんです!」

 祥子さんは離婚を決断した理由を挙げてくれましたが、これは2年前の出来事。酔っぱらった夫はたまたま施錠されていなかった他人の家に侵入。勝手に風呂に入り、シャワーを浴び、全裸のままリビングで爆睡したのですが、そこに家主が帰ってきたので大変。当然のごとく110番をされ、駆けつけた警察官におんぶされ、そのまま留置所へ。そして夜中の4時、祥子さんの携帯に警察からの着信が。急いで家を出て、警察署へ向かったそう。祥子さんは深々と頭を下げ、釈放された夫の身柄を引き取ると、そそくさと帰宅したのです。

 祥子さん夫婦は結婚11年目。筆者は「今回が初めてなんですか?」と聞くと、祥子さんは「トラブルは多々ありましたが、『警察沙汰』は初めてです」と答えます。こんなトラブルメーカーと11年間も結婚生活を続けてきたのは、夫がその都度、反省し、謝罪し、改心すると誓うから。

 例えば夫婦に第一子が生まれたころ、泥酔して帰ってきた際は「もう煙草は吸わないし、酒も飲まない。門限までに帰るし、お前らに迷惑をかけない」と謝罪したと言います。しかも口約束ではなく、一筆を書いてくれたので、まんまと信じてしまった模様。「守れたら守る」という軽い気持ちではなく、必ず守るという強い気持ちがあるのだと。「主人と結婚したとき、まだ20代だったし、私も純粋でした」と祥子さんは回顧しますが、夫の「本性」を知りませんでした。

 残念ながら、祥子さんが安心できたのは一時だけ。約束からわずか1か月後、夫は泥酔して帰宅したのです。「仕事で疲れているから」「いろいろストレスが溜まっているんだ」「眠れないからしょうがないだろう」などと言い訳を並べるのですが、夫の意志が弱いのは明らかです。夫があれだけ「守る」と言い切った約束がまんまと破られたことに、祥子さんは大きなショックを受けました。

 その後も不毛な展開を何度も繰り返していたのですが、結婚11年でついに警察沙汰という超えてはいけない一線を超えたのです。「怒りを通り越し、あきらめの気持ちが湧いてきたんです。もう無理だって」と振り返りますが、祥子さんも我慢の限界に達したようです。

 そんな中、発生したのが新型コロナウイルスのまん延。子どもたちが通う小学校は大混乱で、一斉休校やリモート授業、そして生徒の感染判明等に振り回される日々。祥子さんは「あのときは心身ともに全く余裕がなく、離婚を切り出すタイミングを逃してしまいました」と後悔します。

 一方の夫はどうでしょうか。警察に世話になって以降も、相も変わらずという様子。一例を挙げると夫が酩酊状態で寝室のエアコンを操作。真冬にリモコンの冷房ボタンを押したため、夫だけでなく祥子さんも風邪を引いたそうです。そして夫が千鳥足で帰宅すると、玄関前のフローリングを寝室のベッドと間違えて朝までスヤスヤ。そして自粛期間中は家で飲むので程度をわきまえるかと思いきや、やはり飲み過ぎてしまい、トイレで爆睡。祥子さんが夫をトイレから引っ張り、寝室まで連れて行こうとすると「うるさいわ!」と絡んできたので喧嘩に発展。

夫への離婚の切り出し方

 そんなふうに祥子さんが夫に振り回されるという日々は変わりませんでした。そしてコロナ禍が1年半に達した今年8月。ついに祥子さんは離婚を切り出す決意をしたのですが、問題は「何をどう切り出すのか」。まずは「何を」です。

 夫は誰をどのように傷つけているのかわからないほど無神経な性格。そして自分さえよければいい身勝手な性分。さらに何が良くて悪いのか区別がつかない非常識な思考の持ち主。このような「普通ではない」相手を本当に説得できるのか、祥子さんは心配していました。まず祥子さんは夫婦間で決めるべき内容を「親権」と「養育費」の2つに絞りました。

 筆者は「ほかにも慰謝料や財産分与もありますが……」と投げかけたのですが、慰謝料は精神的苦痛の対価。祥子さんは長年、夫に悩まされ、苦しめられ、傷つけられてきたのだから、その代償として慰謝料をもらいたい気持ちはありますが、夫は悪いと思っていません。そのため、「慰謝料? なぜ!?」という反応をするのは目に見えています。

 そして財産分与ですが、夫は夫婦の貯金を酒代に使いつくし、カードローンにまで手を染める始末。ない財産を分与することはできません。祥子さんは2つに絞りたかっただけではなく、絞るしかなかったというのが現実です。

 次に「どう切り出すか」です。夫のようなタイプは実は二面性の持ち主で、素面では気弱で心配性、シャイで無口なことが多いです。そこで筆者は「昼間は反応が鈍いのではないでしょうか?」とアドバイス。夫は物事を慎重に判断しようと身構えることが予想されます。一方、夜中ならアルコールの力を借り、気が大きくなり、大胆な判断をしやすくなります。筆者は「もちろん、飲酒後はリスク(暴言や暴力、モラハラ)はあります。録音を忘れないでください」と提案したところ、祥子さんは快諾。夫が缶ビールを5杯、飲み干した時点で離婚届を突きつけたのです。