妻の妊娠中にもかかわらず夫が不倫

 そして3人目は夫の不倫という悪夢に震える涼子さん(仮名・38歳)。

「話せば長いんですが……」と前置きし、「PTSDに似た症状に悩んでいます。『そのこと』を思い出すと吐き気を催してしまいます」と苦しい胸の内を教えてくれた涼子さん。彼女が筆者の事務所へ電話をかけてきたのはコロナ真っただ中の1年前。彼女はどんなトラブルに巻き込まれたのでしょうか?

 緊急事態宣言中、涼子さんの夫の勤務先は電車ではなく車通勤を推奨していたそうです。しかし、宣言が解除されても夫は車通勤を継続。これは女性とドライブデートをするためだったのです。デート後にホテルで情事に及び、宿泊せず、日付が変わる前に帰宅。涼子さんは「手慣れた感じがします」と嘆きますが、これは涼子さんが興信所に依頼したから判明した事実です。興信所は夫の車にGPSを設置。そして駐車したホテルのフロントで待ち伏せすると……夫が女性を連れて入室し、3時間後に車へ戻る写真を入手。

 しかし、不倫中も夫婦の間に性生活があり、夫はベッドの上で涼子さんのことを十分に愛してくれていたので、1回目の不倫は見て見ぬふりをしたのですが、すぐに2回目の不倫が露見したのです。夫はパソコンにスマホのバックアップをとっているのですが、涼子さんがそのパソコンにログインしたところ、動画が表示されたそう。場所は宣言中で誰もいない浜辺。波音をBGMに女性の腰から尻に手を回したり、頬にキスをしたり、互いの頭をくっつけたりする姿を夫が自ら撮影したようです。

 さすがの涼子さんも今回は黙認できず、「私という存在がいながら、こんな女に手を出すなんて!」と問い詰めたのですが、夫は「たまたま近くに簡単に身体の関係を持てそうな相手がいたんだ。彼女は僕に妻がいることを知っているし、いつまでも続くとは思わず、軽い気持ちだった」と懺悔したのです。

 涼子さんは夫に「彼女と2人で会わせてほしい」と頼み、直接会ったところ、女性は「そろそろ終わりにしてって頼んだばかり」と口にしたので、復縁はないと判断しました。涼子さんは夫を許したのですが、これはすべて猿芝居。前もって夫と女性は話を擦り合わせ、どのように言い逃れを図るのかを決めていたのです。

 3回目の不倫が発覚したのは涼子さんの妊娠中でした。夫はスマホを2台持ちしているのですが、涼子さんが筆者に「主人が誤って仕事用を自宅に持ち帰るんです」と相談してきたので、「仕事用は緊急時に備え、ロックしていないことも多いですよ」と助言。案の定、自由に閲覧可能な状態になっていました。

 涼子さんが見たLINEには例の女性からの「愛している」「早く一緒になりたいね」「世界で一番大事な人」など甘い言葉のオンパレード。涼子さんは「私に知られないよう仕事用を使うなんて!」と激怒しましたが、夫はまだ抵抗したのです。「それは半年前のだよ? 今はもう恋人じゃないよ。一時的に盛り上がっただけだ。お前が信じようが信じまいが」と逆ギレ。筆者の助言も虚しく、懲りない夫は女遊びをやめることはありませんでした。

 それから1年。久々に涼子さんから筆者へ連絡がありました。当時、胎児だった子どもを無事、出産したのですが、「主人への怒りが子どもへ向かってしまいそうです」と言います。産まれてきた子どもは夫にそっくり。そのため、心の底から可愛がることができず、ふとした瞬間に子どもの顔が夫に見えたとき、胸が痛く、息が苦しく、そのまま倒れてしまいそうな衝動にかられるそうです。

 ただでさえ初めての育児に悪戦苦闘しているなか、動悸や息切れ、頭痛などの症状に悩まされ、苦しい日々を送っているそう。いっそのこと離婚し、子どもを夫に押し付けることができればいいのですが、子育てを何も手伝わず、涼子さんにワンオペを強いる夫が親権を望むとは思えません。涼子さんが育てるしかありませんが、現在、金銭的には何不自由ない生活を送っています。

 無理に離婚し、少々の養育費に甘んじるより、このまま結婚生活を続けたほうが安定していますし、それしか選択肢がないのが現状です。不倫をする夫への嫌悪感、そんな夫の子どもを愛せない罪悪感、夫の経済力に頼るしかない無力感、そして夫の不倫を大目に見るしかない絶望感が今でも涼子さんを苦しめているのです。

 ここまでPTSDの症状に苦しむ3人の女性相談者を紹介してきました。彼女のたちの希望は男に慰謝料等の責任をとらせること、離婚するように夫を説得すること、そして夫に不倫をやめさせることです。しかし、これらの交渉事には多大なストレスが生じ、巨大なプレッシャーに苛まれ、心身のバランスを崩す恐れがあるので、まずはきちんと症状を治すことが先決です。筆者は彼女たちの快癒を願うばかりですが、長い年月が必要でしょうから、今後も引き続き、見守りたいと思います。


露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! ! 慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。
公式サイト http://www.tuyuki-office.jp/