ハードルの高い高齢者のZoom設定はこう乗り越えた!

リアル開催時の模様。アボカドなど、シニアにとっては珍しい食材でも好評だ
リアル開催時の模様。アボカドなど、シニアにとっては珍しい食材でも好評だ
【写真】ビデオ通話アプリZoomで「笑いヨガ」や「料理」を楽しむアクティブシニアたち

「感染拡大につれ会員のリスクが増していくので、'20年2月を最後に、会場でのリアル開催は取りやめざるをえなくなりました。ただ、このままではシニアの人たちが置き去りにされてしまう。孤立した状態が続けば心身ともに衰えていくのは間違いありません。それだけは防ぎたいと思いました」(松澤さん)

 自宅にいながらシニア同士の交流を絶やさない方法として考えたのが『シニア食堂オンライン』だった。開催にあたり、テレビ会議アプリのなかでも操作が比較的簡単なZoomを利用することに決めた。ところがアプリのインストールからして大変だった。

「オンラインを利用できる会員は60名中、23~24名ほど。メールやウェブの閲覧は大丈夫なシニアでもZoomとなると敷居が高かったんです」

 そのため松澤さんらNPOのスタッフが会員ひとりひとりに電話をかけ、シニアの目の前にパソコンを置いてもらい、インストールから操作方法まで電話で丁寧に伝えていった。さらに「シニアオンラインサポーター」という養成講座を設け、これを受講したシニアボランティアに、ほかのシニアへ操作方法を教えるようにしてもらったという。

 前出の会員・矢野さんは、「間違ったキーを1つ押すとダメになってしまうところが難しい。次にどう操作すればいいのか迷うことも多い。だけど手順を書いたプリントを事前にもらっているので、それを見てなんとかやっています」と、語る。

 松澤さんによれば、操作方法を教えることは、スタッフよりシニア同士のほうがうまくいくという。

「シニア同士なら“私もそこがわからなかったわ”“それが難しいんだよね”などと言って、励まし合えるんです。同世代のほうが、教えられるほうも気楽でいられます」

 孤立防止のための取り組みはほかにもある。会員のなかにはネットを使えないシニアもいるからだ。その1つがNPOのスタッフや10名のシニアボランティアが月に1度、会員に電話をかける『ほっと電話』。「元気にしてる?」から始まり、よもやま話に花を咲かせる。

 矢野さんも電話を楽しみにしているひとりで、「発想がいいと思います。松澤さんは企画力がすごい」と話す。

 また、『シニア食堂お便り』として、健康情報やレシピなどが書かれたニュースレターも会員宅へ郵送している。

「(お便りで)献立をもらうんだけど、そのとおりにやればなかなか結構なものができるよ」(前出・塚田さん)

 さまざまな工夫を凝らし、それを実現させる熱意を注ぐことで、松澤さんらは高齢者の孤立を防いでいるのだ。

オンラインならではの意外なメリットも

 いまや高齢者の居場所となっているシニア食堂。松澤さんによれば、NPOとしてシニアの婚活支援を行っていたのが出発点だという。高齢者に着目したのは、結婚相談会の参加者に65歳以上の人が多く、全体の15%にも上ったためだった。

「最初は再婚希望者だと思っていたんです。ところが実際に話を聞いてみると、1人で食事をするのがたまらなく寂しいと語る男性が多かった」(松澤さん)

 その受け皿をつくりたいと、松澤さんらは'17年に料理交流会『シニア食堂』をスタートしたのだ。

「最初は4人から始まりましたが、少しずつ参加者が増えていきましたね。みんなと会えるのがとても楽しいです。身体の衰えやコミュニケーションなどシニアが抱える問題を全部取り入れて、時代に合った形で指導してくれるのがすごいです」(矢野さん)

やっぱり顔を合わせて話す方が楽しい

 シニア食堂が終わったあと、会員同士で喫茶店などに出かけ、“アフター”をするのが常だった。オミクロン禍で控えてはいるものの、こうした場でのおしゃべりがなによりも楽しいと矢野さんは言う。

 もちろん、現在の『シニア食堂オンライン』でもリアル開催と同じく料理指導もあるし、川柳大会などの楽しい催しもあるが、

「顔を突き合わせての開催のほうが楽しいよ。何を考えているのか顔を見ればわかるしね。画面越しとは、やはり違うよ(笑)」(塚田さん)

 こうした声を踏まえ、NPOでは4月から人数を絞ってのリアル開催と、オンライン開催の月2回実施も視野に入れている。オンラインでは名前が表示されるため、お互いの名前を覚えることができ、コミュニケーションがより深まるというメリットもあった。

「オンラインならではのよさも大切にしていきたい」と松澤さんは言う。

 会員にとって、シニア食堂は欠かすことのできない大切な存在になっている。

「月に3回あるといいなあ。それだけあると生活にリズムができます。やることがあるって大切ですよ」(塚田さん)

<取材・文/千羽ひとみ>