「黒い世界には戻れない」

 現在、竹田さんは、風俗店で働く女性の相談に乗る「ラブサポーター」の仕事や、占い師の仕事で生計を立てる傍ら、自立準備ホームの寮母や相談事業もこなし、全国で講演会も行っている。

 今年1月、神奈川県・横浜市で竹田さんの講演会が開かれた。非行少年や子どもの支援活動に携わる多くの人が、竹田さんの言葉に耳を傾けていた。

「どん底まで落ちても命さえあれば、いくらでもやり直すことができる。今朝起きられたこと、ご飯を食べられたこと、そんなことにも感謝して生きていけたら幸せ。そう思える人を1人でも増やせるように、この仕事に携わっていけたらと思っています」

講演会では、真剣な表情で「更生」の難しさを語った 撮影/渡邉智裕
講演会では、真剣な表情で「更生」の難しさを語った 撮影/渡邉智裕
【写真】大勢の人が集まった生前葬

 元受刑者で、現在は出所者の支援に携わる30代男性は、講演会の感想をこう話す。

「自分も虐待を受けて育ち、施設生活が長かった。ケンカが原因で少年院に入った経験もあります。出所後、社会に出ていくことがいちばん大変というところに共感しました。味方になってくれる人がいたら、その人を裏切らないために、自分もちゃんと生きようとまじめになれる。僕もそんな存在になりたいですね」

 竹田さんが講演会で必ず、投げかける言葉がある。

「みなさん、私と同じ環境で生きてきたら、私のようにならない自信はありますか?」

 前科者をひと括りに“自業自得”と切り捨てず、罪を犯す前の境遇にも目を向けてほしい─そんな思いが込められている。

「黒歴史を語ると、批判されるし、最初はしんどかった」

 と前置きし、竹田さんは罪を犯した過去を赤裸々に語る理由を話してくれた。

「今を見てほしいんです。過去のことに囚われるだけなら、前に進めない。私は私の黒歴史を変えたい。禊というか、白い修正ペンでちょっとずつ白い面を多くして、生き直せることを証明するために話しているんです。真っ黒を真っ白にすることだってできると。だから黒い世界に戻ることは絶対できないんです」

 その言葉には、いまだ竹田さんも「更生」の最中であるような気持ちがうかがえた。

 出所者を自立準備ホームに迎え入れるたび、「竹田さんを裏切れない」と語り、自立していく人が1人、また1人と増えていく。そのたびに、「私もこの人たちを裏切れない」という竹田さんの誓いも強くなっていく。先を歩く、生き直しの先輩として─。

【個人相談窓口】相談できる相手がいない方、苦しくなったらツイッターからDMください。竹田淳子@lovesapojt1101

〈取材・文/島 右近〉

 しま・うこん ●放送作家、映像プロデューサー。文化、スポーツをはじめ幅広いジャンルで取材・文筆活動を続けてきた。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、『家康は関ヶ原で死んでいた』(竹書房新書)を上梓。