エイプリルフールで免罪符を得たYoutuber

 お祭り感覚で参入する人が増えれば、炎上する人が増えるのも納得だろう。こうした流れができあがっているだけに、中川さんは、

「今年、来年はYouTube発の炎上が増えるのでは」

 と予測する。

「岡江久美子さんがコロナウイルスによる肺炎で亡くなった際、“岡江久美子の息子”を名乗る悪質動画が多数アップされました。迷惑ユーチューバーのように、手段を選ばずに動画再生数を稼ぐ人もいる。彼らからすれば、エイプリルフールは免罪符を与えられたようなもの」

 実際、昨年はゲーム系ユーチューバーが、自身を有利にさせるゲーム改造行為(チート行為)をしたとされる動画を投稿し、局地的に話題になった。粗製乱造も珍しくないYouTubeから新たな爆弾が投下される可能性は否めない。

「リターンが少ない」禁止を通達する企業も

「東京新聞のエイプリルフール企画から'20年も経過していることを考えると、そろそろ曲がり角を迎えているのではないか」

 とは中川さんの弁だ。

「わいわいと盛り上がるというより、シビアな目でエイプリルフールネタを見る─そんな雰囲気すら感じます。企業のエイプリルフール担当者が胃痛にならないか心配です(苦笑)。4月1日に業種関係なく、競合他社がひしめく中で、一斉にネタを投下する。そして、ツイッターでどれくらいリツイートされ、“いいね”を押されたのか見える化してしまう。場合によってはスベることもある」

 言われてみれば、エイプリルフールは“超”がつくほどのプレゼン大会の様相を呈している。昨今では、話題になるエイプリルフールネタはせいぜい10個ほど。ほかよりも目立たなければ埋もれてしまう─、そんな心理が働けば、多分に“燃料”を含んだネタが投稿されても不思議ではない。

「かつては費用対効果に優れたエイプリルフールでしたが、今では非効率的な宣伝機会の場だと感じます。その手間や労力を、ほかの部分に注いだほうがリターンも大きいのでは。例えば、自社の商品にゆかりのある日を狙えば、競合他社とかぶらないように仕掛けることだってできますよね」

 '19年、アメリカのマイクロソフトは、従業員に「エイプリルフール禁止」を通達した。同社は、それまで毎年ネタを公開していたが、'16年にはグーグルがGmailのネタでやらかし、謝罪に発展。それらに鑑みて、マイクロソフトは「得るものより失うもののほうが多いことを示している」という理由からエイプリルフール撤退を決めた。

「エイプリルフールだったら何をやってもいいのか、ということを見直すタイミングにある」

 そう中川さんが語るように、もし今年、度が過ぎるネタが話題を呼べば、エイプリルフールそのものがなくなるかも……。そんな杞憂が、「ウソでした」で終わることを願うばかりだ。

なかがわ・じゅんいちろう 博報堂を退社後『TV Bros.』編集者を経て、2006年からネットニュース編集者に。近著に『炎上するバカさせるバカ』(小学館)がある。

<取材・文/我妻アヅ子>