二度目は最近の体験だそうだ。それは葬儀を営んだ翌日のことだった。

「朝、斎場に出勤して式場の扉を開けた瞬間、椅子に座っている高齢のご婦人の後ろ姿が見えたんです。色はなく全身が灰色でした。『えっ?』と思った瞬間、フッと消えてしまいました。前日のご葬儀の故人様とは違う方だったのですが、もしかしたら故人様のご友人だったのかもしれません」

 Sさんが接する葬儀関係者の多くも、数々の心霊現象を経験しているらしい。中でも斎場に出入りする掃除業者のほうが、そうした不思議現象に遭遇することが多いように思うと話す。

「以前、ご遺族様が使われた控え室を掃除している最中に、業者さんが悲鳴をあげて飛び出してきたことがあります。話を聞くと、掃除をしている様子をいるはずのない子どもがのぞいていたそうです。実は、その控え室を使ったご遺族様は、お子様の葬儀をなさったんです」

 こうした心霊現象は枚挙にいとまがないそうだ。

「私の場合、突然の出来事にびっくりすることはありますが、怖いとは思わないんですね。というのも、私が遭遇したこの世のものではない方は、ご遺族様が幽霊でもいいから会いたいと思っている故人様かもしれないからです。ほかの葬儀関係者の方々も『なにか忘れ物でもしたのかな』とやり過ごして、あまり気にしないようにしているようです」

火がついたままお骨が運ばれてきて…

 一方で、時には、コメディーさながらの状況に直面することもあるという。これは火葬場でのエピソード。

「ご葬儀というのはタイムスケジュールがすべて決まっています。特に、出棺のお時間は厳守しなければなりません。火葬場は予約制ですから、出棺が遅れると火葬も遅れ、火葬場の予定が狂ってしまうんです。出棺の時間が延びると間違いなく火葬場の職員さんに怒られます」

 その出来事は、出棺が20分遅れたときに起こった。

「その日の最終火葬に20分も遅刻してしまったので、当然、職員さんが帰る時間は遅くなります。職員さんも早く帰宅したかったのでしょう。普段は荼毘に付された後、お骨はある程度冷まされた状態で収骨するのですが、その時はボワ~ッと火がついたまま台車で運ばれてきて、私たちスタッフは目がテンになりました。ご遺族様は火葬場の職員さんに急かされるまま、『熱っ!』と声をあげながらお骨上げをなさっていました」

 今回のエピソードは肩の力を抜いて読めるものばかりだが、前回ご紹介したように実際の葬儀では苦労も多い。それでもSさんは、現在の仕事は天職だと話す。

「ご葬儀の間はひどく取り乱すご遺族様もいらっしゃいますが、火葬を終えられると落ち着いた様子になって、私たちスタッフに『お世話になりました』と頭を下げて帰っていかれるんです。そうした時に流れる温もりのある空気を感じるたびに、この仕事を続けていきたいって思うんです」

熊谷あづさ
ライター。猫健康管理士。1971年宮城県生まれ。埼玉大学教育学部卒業後、会社員を経てライターに転身。週刊誌や月刊誌、健康誌を中心に医療・健康、食、本、人物インタビューなどの取材・執筆を手がける。著書に『ニャン生訓』(集英社インターナショナル)。ブログ:「書きもの屋さん」、Twitter:@kumagai_azusa、Instagram:@kumagai.azusa