加奈子さんは、31歳のときに2歳年下の夫と結婚。当時は自然に任せていたという。心境に変化が訪れたのは夫の弟の妻の妊娠。

「正直、おめでとうという気持ちしかなかったんです。だけど、弟の奥さんが妊娠したことを友人に何げなく話したら“悔しいね、先越されちゃったじゃん”と言われて。それを聞いたら祝福の気持ちがなんだか黒い気持ちに変わっていったんです。弟夫婦は私を出し抜いた気持ちでいるのかもしれない、とかいろいろ考えちゃって」

 そのとき加奈子さんは34歳。今妊娠、出産すれば高齢出産と呼ばれない。焦る気持ちで婦人科の門を叩いたという。そこから“おめでた?”が加奈子さんにとって呪いの言葉へと変わっていった。

「競争意識として子どもを持ちたいという考えが芽生えたあの日から5年たって私ももう39歳です。これまで不妊治療に1000万円近く使いました。排卵誘発のための自己注射も最初は怖かったけど、慣れました。

 夫も私も異常はないのに、なぜできないのか。いつ諦めればいいのか。芸能人の高齢出産のニュースを見るたびにまた諦められなくなる。夫と話し合って不妊治療は40歳まで、と決めているけれど、はたしてそのとき自分は諦められるのか」

 出口の見えない毎日の中、体調を崩すことも多いという。

「そのたびに“おめでたですか?”って聞かれるんです。悪意がないのはわかっています。だけどその言葉は悪口を目の前で言われるより今の私にはつらいんです」

精子バンクを覗く日々

 都内在住の聡美さん(仮名・44)は、いわゆるバリキャリ。就職氷河期時代に大手企業に就職でき、これまで猛烈社員として頑張ってきた。33歳の若さでタワーマンションを購入、おひとりさまを謳歌する聡美さん。男性社会を生きるうえで「結婚しないの?」「相手いないの?」などの言葉に苦しめられてきた。それでも自分の実力でここまでのし上がったという自信が聡美さんを支えている。

 今一番欲しいのは、

「やっぱり自分の子どもを産みたい。その思いが40歳を過ぎてようやく芽生えたんです。となると、もう気持ちは止まらなくなってしまって」

 聡美さんは結婚相手は求めておらず、現在パートナーもいない。

「男性があまり好きじゃないんです。できれば性行為もしたくない。知能は母親に似るっていうし、相手の男性に学歴も求めてないので簡単に見つかると思ったんですよ」

 聡美さんは、インターネットで精子バンクを検索。数ある中から信頼できそうな国内の医院を選んだ。

「そのとき私はもう41歳でした。お医者さまから失敗する可能性の話ばかり聞かされて、さらに倫理観の話までされた。そんなことこっちはわかっているし、覚悟を決めているのに。高額な費用を払ってまで説教されるのは割に合わないと思いましたね」

 聡美さんは、海外のサイトから冷凍精子を購入することにした。

「誰にも会わずに自分で凍結保存された精子を解凍して膣に注入するんです。ドナー情報は最初は見ていましたが今は別にどうでもいい。私の子どもであればいいんです。

 ここ3年、毎月、排卵誘発剤の自己注射をして注入を行っていますが、ご覧のとおり妊娠には至っていません。不自然なことをしているのだから仕方ないのかもしれない。だけどやりきったと思えるまで頑張りたいんです。

 私は独身だし、男っけもないので休んでも“おめでた?”なんて聞かれたことはありません。その逆で、後輩や同僚が休むと“おめでた?”ってつい聞いてしまう。それは祝福の気持ちじゃないんです。“先に授かってずるい!”という妬みの気持ち。こんな自分が嫌だし、おめでたと聞かれて相手が嫌な気持ちになるということを(アナウンサーの)報道で初めて知りました。心から他人の妊娠を祝福できるようになりたい」

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 今回紹介したほかにもさまざまな事情で産めない女性がいる。何げなくかけているその言葉が凶器になることがある事実を知っておきたい。