背景にあるのは3つの要因と分析

「サービス業、接客業従事者へのセクハラパワハラなどハラスメントは長年問題になっていましたが、なかなか顕在化してこなかった。ですが、コロナ禍による規制も緩和され、街に人が戻ってきたことやSNSなどを通して当事者たちが声を上げ始めてきたことにより、可視化されたのではないでしょうか」

 ジェンダー問題に詳しい近畿大学教授でジャーナリストの奥田祥子さんは前述のハラスメント問題の背景には3つの要因があると分析する。

「1つ目はジェンダー問題。社会は男女共同参画、女性活躍が進み、多様性を受容する重要性が訴えられています。そのため、会社など公的な場所では表向きは女性を差別、蔑視をする男性は減ってきたように思います。ですが、実際には、本音や内に秘めた部分で根強い女性差別や蔑視が残っているとみられます」(奥田さん、以下同)

 特に買い物や食事など、プライベートな時間に、つながりが浅い人と接する際に本音の部分が見え隠れするのだという。そのときに女性店員がターゲットになる場合も。

 2つ目は職業特性。

「かつては『男は度胸、女は愛嬌』という表現がよく使われていました。それに加え、今も特に飲食や販売など接客を伴うサービス業では女性従業員に対して気遣いや丁寧な対応、柔らかな表情などが求められることが多い。接客マナーはもちろんですが、顧客に対するホスピタリティーが付加価値になるのです。それを履き違えている男性がいるとみられます」

 そのためホスピタリティーを好意と勘違いし、必要以上に接触を求めたり、日頃のうっぷんを晴らすため、威圧的な態度を向けることも考えられるという。

「3つ目はアンコンシャス・バイアスです。これは無意識の偏見、無意識の思い込み、のこと。本人が気づいていない偏ったものの見方や認知のゆがみのことを指します。特に中高年男性が陥りやすく、パワハラセクハラ、モラハラの行為につながることもあります」

 実はこれこそが最も、深刻な問題なのだ。日本の企業の多くは古くから男性主導の権威主義、排他的な組織を育んできた歴史がある。

「故意的な場合もありますが、多くの男性は建前上、女性を下に見たり、悪態をついたりしたらダメ、とわかっているのに、無意識のうちに昔ながらの権威的な男性社会の考え方を引きずってしまうのです。そのため、サービス業や接客業の女性に対して支配者のように振る舞うものと考えられます」

 問題はわかっていても対策が取られてこなかった背景には企業側や男性上司にも古い価値観や体質があったからだと奥田さんは指摘。ほかにもSNSなどを通して噂だけが独り歩きするネット社会。プライバシーの問題もあり警備を強化することで顧客を遠ざけるのではないか、と二の足を踏む状況も考えられる。

「これは悪循環です。被害に遭う女性従業員だけでなく、純粋に買い物やサービスを求めてくる男性客自身、被害経験のある女性従業員に警戒されたりするなど、二次被害を被っているのですから」

 さらに被害は実は女性従業員にとどまらない。

「男性や多様な性を生きる従業員も被害を受けています。セクハラストーカーなどの加害者の中には女性顧客が男性従業員にハラスメントを行うこともあり、男女問わず加害者にも被害者にもなりうることを念頭に、サービス業、接客業従事者に対する性別を超え多様な性を踏まえた、差別や蔑視について問題視していかないといけません」

 こうした差別的な価値観は親から子へと受け継がれていくおそれもあるという。

「10代、20代の若者も無意識のうちに親の差別的な価値観の影響を受けている場合があります。子どもが加害者になることもあれば、被害者になることもある。そして、被害者になったとき“そういう仕事だから我慢しなさい”と親自身が子どもを突き放してしまう場合まであります。そうなれば子どもたちは誰にも相談できずに1人で抱えてしまう」

 だが、逆に問題が噴き出ている今をチャンスとして捉え、状況を変えていくタイミングでもあると奥田さんは訴える。

「冒頭の美容部員の投稿を通して、接客業やサービス業従事者の被害や、女性蔑視、ジェンダーに対して関心が集まり、問題提起されました。これまで多くの女性従業員が傷つき、泣き寝入りしています。多様性重視や女性活躍など表面的には解決に向かっているように見えますが、足元では依然として問題が起きている。これを契機に社会全体として意識を変えるためにひとりひとりが考え直すタイミングなのではないでしょうか」

お話を伺ったのは
近畿大学教授・ジャーナリスト
奥田祥子さん

 仮面イクメン、無自覚パワハラ、就活セクシズムなど独自の切り口で仕事や私生活での生きづらさを追う。『捨てられる男たち』『「女性活躍」に翻弄される人びと』など著書多数。