シングルマザーの思いをのせて開店

 2016年、ホームレス支援を続けていた上野さんは、1本の映画と出会った。

「大阪・釜ヶ崎の『こどもの里』に密着取材したドキュメンタリーでした」

 日雇い労働者の街として知られる釜ヶ崎(西成区)に、長年にわたって子ども食堂やくつろぎの場を提供する活動を続けるNPO法人『こどもの里』がある。その活動を紹介した映画だったのだ。

 私も子ども食堂をやりたい─。地元の社会福祉協議会に相談すると、偶然にも上野さんの自宅近くの地域で、子ども食堂を開いてくれる人を探しているという。早速、豊中市内にある図書館を会場にして2017年、子ども食堂『たかがわみんなのひろば』をオープンした。

 食堂を訪れる子どもたちにはシングルマザー世帯も多かったが、当のママたちに話を向けてみると、意外に評判は悪かった。

「“子ども食堂?私は働いているし、かわいそうな親子じゃない。そんなふうに私たちを見てほしくない”って─。実は、この前年ぐらいからメディアが子どもの貧困を頻繁に取り上げだして、それに伴い子ども食堂のことも報じるようなったから、そのイメージが定着してしまっていたんですね。

 ただ、私に話してくれたシングルマザーの彼女は、仕事を3つもかけ持ちしていて、限界にきていることは明らかでした」

最大震度6弱の激震に見舞われた大阪府北部地震では6万棟を超す住宅に被害が 撮影/齋藤周造
【写真】『おかえり』の2階、秘密基地のようになっている子どものスペース

 母子支援の必要性を痛感し始めていたころ、マグニチュード6・1を記録した大阪府北部地震が襲った。限界近くまで働いているシングルマザー世帯に食料を備蓄する余裕などあるはずもなく、“買い置きがまったくない” “どうしよう?”という不安の声があがった。

「その夜のうちに、私がフェイスブックで“物資をくれ”と呼びかけたんです。すると翌日から来るわ来るわ……」

 全国からの善意が殺到。4トントラック2台が自宅に横付けされるほど大量で、ガレージに提供された物資を積み上げたが、それでも置く場所が足りない。上野さんはPTAのLINEグループに“困っている人は誰でもいいから取りに来て!”と投稿した。

 非常時であることが善意の受け取りやすさにつながった。シンママから高齢者、被災者までさまざまな人300人が集まり、物資は瞬く間にはけていった。

 これをきっかけに上野さんは翌年9月、シングルマザーを支援する団体『シンママ応援団とよなか』を設立。地震のときにやりとりをしたシングルマザーたちのグループLINEを作り、当たり障りのない話をすることから始めた。すると“うちは大丈夫”とそっけなかった人も、親しくなるにつれ、ぽつりぽつりと話をしてくれるようになった。

 そのうちのひとりである、シングルマザーの言葉が上野さんの心を捉えた。

「子どもの面倒を見ながら食事を作って、まずは子どもに食べさせて、食い散らかしたあと、冷め切ったものを自分が食べる。疲れ切ったときにそれをやっていると、すごくみじめな気持ちになってしまう、と─。だったら、ママがごはんを食べるときに子守りをしてくれて、温かいものは温かいうちに食べられる場所を作ったらいいんと違う?と思ったんです」

 こうして2019年9月、食堂兼支援拠点として、上野さんの地元・庄内に『おかえり』が誕生した。