死生観に大きな変化

 橋田さんの死に直面したことで、自身の死生観にも大きな変化があったという。

「ママの死からものすごく死について考えてる。熱海にお墓を建てたし、断捨離もして、菊田一夫賞も橋田賞も全部捨てちゃった(笑)。ママもそうだったけど、いつ死ぬかなんて誰にもわからないんだから、できることをしておかないと。私にできることは何だろうと考えたら、みなさんに喜んでもらえる作品を届けること。今回の作品にしてもそう。それしかないって思うんです」

 内館牧子との出会いも橋田さんを介してのこと。内館がまだ駆け出しで、橋田さんのもとで下積みをしていた時代の話だ。

「ママから“作家志望の子がいるのよ、彼女にインタビューに行かせるから”と言われ、NHKの大河ドラマ『いのち』の取材に来てくれたのが内館さんとの初めての出会い。

 彼女は私よりひとつ年下で、誕生日は1日違い。でもあの時は自分よりずっと年上だと思っていたんです。当時はまだ会社勤めで、すごくきちんとしてたし、大人でしたね。あれから大先生になっちゃって。この舞台が決まったとき、ママの墓前に“これに出るよ、原作は内館先生だよ”と報告しました。できれば舞台も観てほしかったけど」

 ピン子主演の舞台といえば、これまでは明治座や演舞場などいわゆる大舞台が常だったが、今回はより客席と距離の近い空間で2人きりの朗読劇に挑む。作中はハナをはじめ4~5役に扮し、その変幻自在な演技も大きな見どころだ。

「衣装は全て自前。気合い入ってます(笑)。見に来てくださるお客様との縁は一期一会だと思っていて、だからセリフを覚えるなんて基本。

 橋田作品では12ページ分のセリフを当たり前に喋っていたし、自慢じゃないけどNGを出したことは2度もありません。ただ朗読劇は私も初めてのことだから、村田さんにご迷惑をかけないようにしないといけない。そのためにもまずは自主トレから始めています」

 舞台は8月4日からだが、来年以降も引き続き上演を予定し、地方公演も含め計画が進んでいるという。

「内館先生の故郷の東北も行きたいし、地方もどんどん行って、あちこちの方に観てもらえたらと思っています。観に来てくださる方もきっと同じ歳くらい。どっちが先かみたいな感じで、冥土の土産に持って行ってもらえたら(笑」

 この朗読劇はピン子にとって新たなスタートとなる。感謝を口に、真摯な姿勢で舞台に臨む。

「私が今日あるのは全国のみなさんのおかげ。でもなかなか東京まで見に来てくださいと言うのは難しい。今まで応援していただいてありがとうございましたとお伝えする意味でも、こちらからあちこちへ出向いていきたいです。私でよければ元気をお届けしたいなと。女優の仕事は私の生きがいであり、これは私のライフワーク。本当に命をかける気持ちでいて、この先できる限り続けていけたらと思っています」

朗読劇『泉ピン子の「すぐ死ぬんだから」』

 ヒロインの忍ハナは78歳。家業の酒屋を息子夫婦に譲り、夫の岩造と共に仲睦まじく隠居生活を送っていた。ところがある時夫が急逝したことから、穏やかだった日々が大きく変わり始める―。 人生100年時代といわれる現代の“終活”劇を原作・内館牧子、台本/演出・笹部博司、作曲・宮川彬良と、最強の布陣をもって痛快かつ生き生きと描き出していく。

 8月4日より東京・池袋のあうるすぽっとを皮切りに、9都市22公演を予定。

<取材・文/小野寺悦子>