コロナ禍が葬儀にも影響を及ぼす中、「エンバーミング」が今、注目を集めている。遺体に消毒、防腐を行い、きれいに修復して長期間の保全を可能にする特殊技術だ。その資格保有者のひとりであり、「葬送のプロ」からの信頼も厚い真保健児さんは、死を見つめ、遺体と向き合い、エンバーミングを通して遺族に寄り添い続けてきた。JR福知山線の脱線事故の際にも実施された、知られざる「おくりびと」の世界に迫る!

最長で50日間衛生的に保全可能

「エンバーミング」という言葉をご存じだろうか。遺体を修復し、特別な防腐処置を行うことで長期間の保全が可能になる技術のことだ。葬儀サービスのひとつで、日本語では「遺体衛生保全」と訳されている。

 通常、遺体はそのままにしておくと腐敗が進行してしまう。それを防ぐには、ドライアイスや保冷庫を使う方法が一般的だが、長期間の保全は難しい。ところがエンバーミングをすることによって、なんと最長で50日間も遺体を衛生的に保全できるという。

 一般社団法人『日本遺体衛生保全協会』(以下、IFSA)によると、エンバーミングの実施件数は近年、増加傾向にある。2021年には5万9440件に達し、2010年の2万1310件から倍以上となった。しかし一方で、故人を「きれいな姿で送ってあげたい」という思いがあっても、その方法がわからない遺族もいまだに少なくない。

エンバーミングルームで、真保さんは手順をひとつひとつ、丁寧に説明してくれた 撮影/齋藤周造

 関東地方に住んでいた高齢男性の遺族の場合も、そうしたケースのひとつ。亡くなった男性は自宅でひとり暮らしをしていた。男性の娘をはじめ家族が頻繁に会いに行ったり、連絡をとったりしていたが、たまたま連絡できない日が続いた。その間に、不幸にも男性はひとりで亡くなってしまったのだという。

「娘さんは、しばらく会いに行けなかったことを悔やんでいました。ご遺体の状態がかなり悪かったのですが、“いちばんいい方法で、きれいな状態で送ってあげるにはどうしたらいいか”と相談されたのです」

 そう話すのは、エンバーミングを行う技術者、『エンバーマー』の真保健児さん(49)だ。日本では現在、エンバーミングの資格保有者は250名前後といわれている。そのほとんどが葬儀社に勤務する中、真保さんは独立系のエンバーマーとして、これまでに1500人以上にエンバーミングの処置を行ってきた。

「亡くなった男性のご遺族はエンバーミングについてご存じありませんでしたが、詳しく説明し、ケアをさせていただくことになりました」

 故人は生前、「自分が死んでも葬式はいらない。お金をかけるな」と言っていた。その思いを酌んで葬儀は行わなかったものの、「これだけはしてあげたい」と、遺族は真保さんにエンバーミングを依頼したのだ。

「エンバーミングを行うことによって、少なくとも10日程度ならば、ご遺体をいい状態のまま保全できます。そのため時間的な猶予ができ、故人とともに自宅でゆっくり過ごしたり、故人の遺志やご家族の思いを反映した葬儀の準備が行えるようになります。

 また、遠方にいる身内や、すぐに戻れない身内を待ってあげたいということで、エンバーミングを依頼されるご遺族もいます。事故による激しい損傷や、病気による痛ましい姿を、なんとか生前の姿に近づけてほしいという方もいらっしゃるんですよ」

 真保さんが代表を務める『ディーサポート』は、「尊体(遺体)業務」に伴う葬祭分野が専門。つまり、納棺からメイク、エンバーミングまでをトータルに行い、日々故人と家族の「別れ」をサポートしている。