無低に入る前、住所不定状態だったナオトさんは接種券を受け取ることができず、一度もワクチンを打てていなかった。大人数の相部屋での感染リスクは高い。いったい、どうして自分はこんなところに入れられてしまったのか──。

「無低には行きたくありません」と伝えたが…

 ナオトさんをこの無低に入居させたのは、生活保護を申請した自治体だった。

 仕事も住まいも失い、料金未払いで携帯電話の通話機能も止められたナオトさんは今年1月、都内の自治体の福祉事務所に足を運んだ。その際、担当者に「無低には行きたくありません」と伝えた。ネット記事やSNSなどで無低の悪評を知っていたからだ。しかし、返事は「携帯で連絡が取れない人は無低に入ってもらうしかない」と取り付く島がないもの。「どうしても行かなきゃダメですか」と食い下がったものの、対応は変わらなかったという。

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 渡された地図を頼りにたどり着いた無低では、早速契約書を書かされた。諸費用の中でも意味不明だったのは「基本サービス費」の月額1万6500円。生活や就職のための相談料と説明されたが、入居中、そうした支援は皆無だった。食事についても、食が細いナオトさんは1日3食の必要はないので、食費は自分でやりくりしたいと訴えたものの、選択の余地はないといわれた。契約は両者合意が当然のはずなのに、ナオトさんの意思はいっさい無視。入居後、手元には毎月4000円も残らないとわかったときは愕然としたという。

 日々の暮らしにも多くの制約があった。外出するときは職員に報告しなければならず、門限は午後5時。起床や入浴の時間も決まっていた。食事も、食堂が狭かったので入居者は番号で呼ばれた順に交替で入室し、15分ほどで済ませなければならなかった。

 ナオトさんは「最初は眠る場所があるだけいいと、ケースワーカーに従いました。でも、てっきり1、2カ月で出られるものと思っていたんです」と振り返る。

入居後すぐにコロナの感染拡大が本格化。ケースワーカーとの面談も途絶えてしまった。1日も早くクラスターの恐怖から解放されたかったが、手元に残る現金が少なすぎてあらためて携帯を持つこともできない。携帯がなければ、アパート探しも就職活動も難しい。日雇いバイトはあったが、生活保護利用中は収入を申告しなければならないので、根本的な解決にはならない。

「早く住まいを見つけて、働いてお金を貯めたいのに。(相部屋のせいで)だんだん夜も眠れなくなっていって、精神的にもう限界でした」

多人数の相部屋、生活保護費のほとんどを巻き上げるシステム、制約だらけの生活──。いずれも悪質無低の典型だが、そもそも無低とはどのような施設なのか。