「亡くなった妻は、最期は希望どおり自宅に戻れて、とても喜んでいました。私も高齢単身者ですが、家で最期を迎えるためにも身体を鍛えておきたいですね」

 がんになったら、まずやめるべきは喫煙だと専門医の立場からも口調を強くする。

「たばこに含まれる発がん性物質は、肺はもちろん、唾液にまじって食道や胃にも悪影響を与えます。吸収されて血管に入れば、発がん性物質が全身にまわることに。私は若いころに少し喫煙していましたが、もし今、たばこを吸っていたら、絶対にやめてほしいですね」

大腸がん検診(便潜血検査)は、大腸がんの早期発見に有効な検査。「陽性になったら必ず精密検査を受けてほしい」
大腸がん検診(便潜血検査)は、大腸がんの早期発見に有効な検査。「陽性になったら必ず精密検査を受けてほしい」
【写真】垣添忠生先生ががんになってはじめたこと

 先生は今後も取り組んでいきたい目標として、(1)がん検診の受診率向上、(2)がんサバイバーの支援、(3)在宅医療・看取りの支援、(4)遺族の心のケアの4つを柱としている。

「検診で早期発見すれば、がんは怖くない。なのに、日本のがん検診受診率は50%以下です。大腸がんの便潜血検査で陽性でも、精密検査を受けなくては意味がない。放置したばかりに、がんが進んでしまった悲劇を、私は多く目にしてきました」

 また、がん患者に対する偏見や、就労上の差別も問題だ。2人に1人ががんになる時代、「普通の病気のひとつなのに、隠さなければいけないような社会はおかしい」と強調する。 

「10数人が集まったとある会議では、半数ががん経験者でした。ドラマでは“がん=死”のような描かれ方をしますが、実際は違う。元気に暮らすがん患者は大勢います」

 がんサバイバー支援活動として、のぼりを掲げて九州から北海道まで歩いたことも。

「私は今年81歳。残りの人生でやりたいことをやるには、やはり足腰を鍛えないといけません。身体を張らないと、口先だけでは人は動いてくれませんからね(笑)」

始めたこと「食後の踏み台昇降」

 がんのリスクを高める糖尿病を予防しようと、血糖値の上がる食後に踏み台を上り下り。「太ももや臀部の大きな筋肉に血糖が吸収されるので効果大。足腰の筋トレにもなります」

PROFILE……垣添忠生先生●1975年より国立がんセンター病院勤務。病院長などを経て、2002年に総長就任。2度のがんを経験。現在、日本対がん協会会長を務める。著書に『妻を看取る日』(新潮社)。

(取材・文/志賀桂子)