今回の騒動で際立っていたのは、妻であり母であるpecoの、家族への深い愛情と強い意志だろう。

《何よりもまず、りゅうちぇるという人間そのものがだいすき》

りゅうちぇるがこうして今生きて、勇気を振り絞って打ち明けてくれたことに、ありがとうの気持ちでいっぱい》

《わたしは息子に胸をはって、りゅうちぇるはすてきなパパだよと伝えられる》

 と、ryuchellと息子への迷いなき気持ちをインスタで語っている。

「pecoさんのこの発言が、すべての答えだと思います。周囲が何を言っても、pecoさん自身はryuchellさんをまるごと受け止め、新しい形でやっていこうとすでに前を向いています。さまざまな家族の形をみんなで応援し、支えられるような社会になるといいですね」

 ryuchellのように、結婚後に自身の性自認に迷いが生じるのは決して珍しいケースではない。特に子どもがいる家庭では、親としてどうすべきか非常に難しい選択を迫られる。

「今回のpecoさんの対応は素晴らしいものでした。とはいえ、自分がpecoさんと同じ立場に立たされてしまったとき、同じようにふるまえなくても自分を責める必要はありません。多様性を認めるべきと頭ではわかっていても、心が追いつかないのは当たり前です」

 苦しければ物理的に距離を取り、別居をするなどして新たな関係性を築く方法もある。

「ryuchellさんたちは同居を続けることを選びましたが、この先、子どもの成長やお互いの心境の変化に伴い、別の選択をする可能性もあるかもしれません。それでもいいんです。絶対にこうすべきとの正解はありません。

 その都度、臨機応変に、家族がいちばん心穏やかに過ごせるスタイルを模索していけばいいと思います」

 家族の形は、それぞれの家族の数だけ無限にあるのだ。

高祖常子(こうそ・ときこ)●認定子育てアドバイザー。NPO法人ファザーリング・ジャパン理事。子どもの虐待防止や、家族の笑顔を増やすための講演活動なども行う。著書に『感情的にならない子育て』(かんき出版)など多数

(取材・文/植木淳子)