僕が「世界で勝負したい」理由

 ほぼ毎日続けているSNSへの作品投稿だけでなく、新刊出版に展示会の開催など、多忙を極めているリトさん。

「9月も、10月も展示会や講演会がいっぱい入っています。月に3~4か所くらいかな。切り絵にちなんだグッズ──ポストカードやトートバッグ、ぬいぐるみも作って、イベント会場で売っています。以前はサラリーマンで給料をもらう側の人間だったから、自分で考えて自分で仕事を作っていることが楽しいですね

リトさんの作品がプリントされたオリジナルグッズは、展示会で購入することが可能 撮影/渡邉智裕
リトさんの作品がプリントされたオリジナルグッズは、展示会で購入することが可能 撮影/渡邉智裕
【写真】見る人の心を揺さぶり想像力を刺激する「葉っぱ切り絵」の数々

 葉っぱ切り絵を軸にしながらも、意識的に活動の幅を広げてきた。

自分が作りたいものをただ作るんじゃなくて、お客さんは何を欲しがっているのかな、どういうものがあればうれしいかな、と考えています。おいしい料理を提供するみたいな感覚。

 同じメニューだけど、ちょっと“味変”するとか。先週はビーフカレーだったけど今週はトマトカレーだよ、みたいな(笑)」

 思いがけないところで作品の反響を感じることもある。「発達障害」をテーマにした講演依頼が増えてきたほか、ワークショップの開催を望むリクエストの声も上がっている。さらに、リトさんをきっかけに「葉っぱ切り絵」を授業に取り入れた学校も。関東地方のある小学校で、4年生を担当する先生はこう話す。

「『総合的な学習の時間』で子どもたちが葉っぱで切り絵を作る授業をしています。リトさんの『情熱大陸』を見て、こんな人がいるんだと知って、作品をチェックしました。

 授業で葉っぱ切り絵を取り入れたのは、自然に触れることができて、モノ作りをしたいという子どもたちの希望もかなえられるから。リトさんの展示会に、自分たちが作った葉っぱ切り絵を見せに行った子もいますよ。

 今は11月に発表できるよう、子どもたちが葉っぱ切り絵の4コマ漫画に取り組んでいるところ。みんな、とても楽しみながら作っています」

 こうした声に、リトさんは「ありがたいですね。3年前だったら想像もできなかったこと」と驚く一方、意外にも危機感を抱えている。

ファンの思いにこたえながら作品作りを続けてきたリトさん。その姿勢は一貫している 撮影/渡邉智裕
ファンの思いにこたえながら作品作りを続けてきたリトさん。その姿勢は一貫している 撮影/渡邉智裕

「同じことを続けているだけでは自分自身も行き詰まってしまうし、ファンにも常に成長する姿を見せていきたい。まだ日本でしか展示会をできていないので、まずは海外で作品展を開催して、僕の葉っぱ切り絵を見た海外の方がどんな反応をするのかを、じかに見てみたいですね。もちろん、葉っぱ切り絵は僕の活動の基本なので、どこにいようとできるだけ毎日、投稿します」

 実際、リトさんのSNSには海外のファンからも多くのコメントが届く。愛らしいキャラクター、そして言葉が通じなくても理解できる物語は、グローバルに評価されている。

「極端な集中力」という発達障害の特性を活かし、環境を整える。SNSを活用し、発信するだけでなく、ファンからのフィードバックを大切にしながら作品を作る。ネット時代だから生まれたアーティスト・リトさんの新たなステップも目が離せそうにない。

取材・文/小泉カツミ(こいずみ・かつみ) ●ノンフィクションライター。芸能から社会問題まで幅広い分野を手がけ、著名人のインタビューにも定評がある。『産めない母と産みの母~代理母出産という選択』『崑ちゃん』(大村崑と共著)ほか著書多数。