温かい励ましの声に支えられて

 現在、放射線治療は3分の2を終え、がんも消滅しているが、再発防止のために、放射線治療は続けなければならない。

杉田さんの顔の形に合わせた放射線治療用のマスク
杉田さんの顔の形に合わせた放射線治療用のマスク
【写真】4月に開かれたコンサートで熱唱する杉田あきひろさん

「のどはまだものすごく痛くて、食べたり、しゃべったりすると傷口に唐辛子を塗りつけられるような感覚になります。歯磨き粉の普通の成分でさえも激痛が走って涙が出るほどつらい。抗がん剤のため、髪の毛もごっそり抜けました。痛み止めなど、1日3回たくさんの薬を服用しています。

 でも、10月22日のコンサートで復帰するという目標があるので、心は折れていません。同じ苦しみを持っているがんの方も、僕のやる気を見て、気持ちが上がってくれればうれしいです。

 また、入院中は、コロナ禍もあって医療現場の方の大変さを間近で見ました。それでも本当に患者ひとりひとりを思いやってくださっている。医療関係者の方には感謝の気持ちしかありません」

 音楽仲間からも励ましの声が続々と届いているという。

「僕が逮捕された直後に母が他界したのですが、葬儀にも参列できず罪悪感が残ったままでいました。自分は孤独だと感じていたのですが、こんなにも応援してくださる人がいて『孤独じゃなかったんだ』と気づきました。

 以前『レ・ミゼラブル』の舞台でご一緒してかわいがっていただいた岩崎宏美さんからは『(杉田さんの)ツイッターを見てるとつらいけど、頑張んなさい』という言葉をいただきました。

 横山だいすけ君をはじめとした『おかあさんといっしょ』のお兄さんやお姉さんたちなど、先輩や後輩からもたくさん連絡がきて、励みになっています」

点滴で抗がん剤と生理食塩水を投与。7時間ほどかかることも
点滴で抗がん剤と生理食塩水を投与。7時間ほどかかることも

 がんになったことで新たな目標ができ、気持ちが変わったという杉田さん。

「僕はまだ死ねないんだな、やるべきことがあるんだなと改めて思いました。まだ依存症からの回復途上ですが、依存症と同時にがんも克服できた人ってなかなかいないと思うんです。依存症もつらいですが、がんの治療も本当につらいです。

 でも、僕が克服することで、悩みを抱えていたり、苦しんでいる人たちの希望になるなら、やはり発信していかなければなりません。失敗したり、どん底に落ちてもやり直せるんです。そして、僕はそれを歌で伝えていくことが使命なんだと気づきました。

 つらい治療が終わったあとに、どんないい歌が歌えるのか、今はちょっとワクワクしています」

 自身の弱さと、それを乗り越えるつらさを隠さず発信してきた杉田さんの姿は、見ている人たちに応援したいという気持ちを芽生えさせてきた。そんな、たくさんの人からの温かな励ましによってパワーアップした杉田さんが、復帰の舞台で元気な姿を見せてくれることを、多くのファンが楽しみにしている。

10月22日『音楽のチ・カ・ラ 感動コンサート~愛と平和と音楽と~』(兵庫県立芸術文化センター 神戸女学院 小ホール)にゲスト出演予定。

杉田あきひろ(すぎた・あきひろ)●歌手。ミュージカル俳優。ASK認定依存症予防教育アドバイザー。1965年、福井県出身。慶應義塾大学文学部哲学科卒業。『おかあさんといっしょ』(NHK・Eテレ)の第9代「うたのお兄さん」。『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』などミュージカルでも活躍。

〈取材・文/紀和 静〉