胃液の逆流で眠れない。妻にあたったことも

 退院して何よりつらかったのが、思うように食べられないことだった。雑炊を子ども用の茶碗で8割ほど食べただけで、吐き気。横になれば胸やけが始まり、胃液とだ液が混じった消化液が逆流した。

「鼻からも消化液が出るんですよ。逆流したあとも、消化液はいろんな物質が含まれるので喉がヒリヒリしたり、嫌な感じが残る。横になれないので手術から半年はほぼ毎日、寝るときに座ったまま夜を明かしました。今でも寝始めるときは横になれません」

 病理検査の結果、ジストの確定診断が下る。そのうえ、腫瘍の悪性度が高かった。

「再発や転移する可能性が高い現実を目にし、あとどのぐらい生きられるのかと。足元から崩れる思いでした」

 すぐに5年生存率が92%という抗がん剤「グリベック」での治療を開始した。

「でも8%は死ぬよねって思っちゃう。私の生存率はこのデータより低いはずだって」

 もともと下痢ぎみだったが、抗がん剤の副作用でさらに悪化。消化液の逆流もひどくなり、しゃっくりが増えた。

「おそらく胃の切除と抗がん剤の副作用が影響しているのだろうということで、薬も出してもらいましたが、ちっとも和らがない。だから1日7回の食事が拷問のようでした。妻が食事を運んでくると、『そんなん持ってくるな』と怒鳴ったりしていたんです」

あかねさんが作ってくれた、最近の食事。残すことも多いが、以前と比べたら食べられる量も種類も増えてきた
あかねさんが作ってくれた、最近の食事。残すことも多いが、以前と比べたら食べられる量も種類も増えてきた
【写真】妻・あかねさんが作ってくれたごはんを頬張る大橋先生

 医師として診ていた緩和ケア病棟の患者と、つい自分を重ねてしまっていた。

「データがあるわけではないけれど、食べられなくなった患者さんと、1か月ぐらいでお別れすることが多かったんです。『食べなきゃひと月で死ぬ』と焦っていました」

 3か月ほどたち、気分転換に外食するように。好きだった牛丼を完食できはしないが、妻と足を運んだ。

「妻には苦労をかけました。感謝を伝えると、笑って『しぶとく生きればええやん』と言うんです。そうやなと」

あかねさんが作ってくれた食事を頬張る、最近の大橋先生の様子
あかねさんが作ってくれた食事を頬張る、最近の大橋先生の様子