首相秘書官が失言で即時更迭されるのは「過去に例がない」(内閣官房)。荒井氏は2008年に、岸田首相が内閣府特命相だったときに部下として仕え、現在の嶋田隆首席秘書官の経産事務次官時代は直属の総務課長。このため、岸田首相と嶋田氏の双方から信頼される「首相秘書官の軸」(官邸筋)と位置付けられていた。

 荒井氏は、岸田首相の演説の“スピーチライター”も担当し、安倍元首相の国葬での岸田首相の弔辞も荒井氏がまとめたとされる。まさに「首相の身内の暴言」となっただけに、人権を重視する欧米各国は「岸田政権の人道軽視の表れ」と受け取る向きが多く、今後の岸田外交にも悪影響を及ぼすことは間違いない。

相次ぐ「秘書官チーム」の失態が政権危機に直結

 1月に岸田首相に同行して欧米を歴訪した長男・岸田翔太郎首相秘書官が、公用車で観光地を訪れたとされる問題が批判されたことに続く、官邸秘書官チームの失態。与党内では「政権危機につながる事態。秘書官1人を代えて収束する問題ではない」(自民幹部)との声が相次ぐなど、岸田政権への打撃は「過去最大」(同)とみられている。

 これを踏まえ、岸田首相の最側近で“知恵袋”とされる木原誠二官房副長官は、5日午前のNHK番組で、「きわめて深刻に受け止めている。多様性を尊重し、包摂的な社会をつくろうと一貫して取り組んできた岸田政権の方針とまったく相いれない」と深刻な表情で語った。

 そもそも岸田内閣は、昨年8月の改造後、「旧統一教会との癒着」「政治と金の醜聞」で、年末までに4人の主要閣僚が辞任(更迭)などを余儀なくされてきた。しかし、岸田首相は、いずれも当事者の「説明責任」を優先し、国会などでの対応をみたうえで事実上更迭するという対応が、「優柔不断ですべてが後手」(立憲民主幹部)と批判された。

 そうした経緯もあり、しかも荒井氏の発言は「明白な差別で時代錯誤そのもの」(官邸筋)だっただけに、岸田首相も「直ちに対応をしなければ、政権崩壊につながるとの危機感」(同)から、即時解任を決断したのが実態とみられる。