トマトやキュウリを100円分ほど盗んで

「高齢女性受刑者の罪名の9割は窃盗で、凶悪な犯罪で収容されるというより、微罪とされる万引きで何度も捕まる人が多い。繰り返し罪を犯し、刑務所に戻ってくる女性が多い背景を知りたくて、女性刑務所の取材を続けることにしたのです」(猪熊さん)

 実際に高齢女性受刑者に会って話を聞いた猪熊さんの著書の中には、刑務所への入所は7度目という70代の受刑者の次のような語りがある。

《ここに入って2年近くになります。罪名は窃盗です。お店のものを、100円かそこら盗んじゃったんですよ。トマトやキュウリ1本ぐらいでここに来ちゃった。主人がね、といっても、私にとっては二度目の亭主で、それも数年前に離婚したんですが、その人が酒乱でね。飲んで、殴る、蹴るをするんで。その腹いせっていうわけでもないんだけど、私もばかでやんなきゃいいのに、窃盗をしてしまって》(『塀の中のおばあさん』より)

 80代で入所3度目の女性は、夫に先立たれた寂しさで万引きをしたと語る。

《なぜ万引きをしてしまったのか。ここに入ってから、部屋で、ずうっとそんなことばっか考えているんですけど、やっぱり、寂しさがあったのかなと思う。時間が余り過ぎていて、孤独が中心にあったんじゃないかと思います》(『塀の中のおばあさん』より)

 多くの受刑者は「寂しい」という言葉を口に出し、70代の受刑者のように「犯罪の加害者ではあるが、DV(配偶者や恋人からの暴力)や虐待の被害者でもある」というケースも多い。