特異な人ではなく、どこいにでもいるおばあさん

「話を聞いた受刑者は、特異な人というよりは、どこにでもいるおばあさんという感じでした。窃盗をする背景には、困窮以外に、孤独や寂しさ、ストレスなどが挙げられます。取材では、若い年代の受刑者にも話を聞きましたが、総じて、厳しい成育環境によって、感情統制が苦手、自己承認欲求が強い、自己肯定感が低いといった傾向があるように感じられました。刑務官は『生活に張りがあって、家や社会に居場所がある人はここには来ない』『家族関係が悪かったり、社会とのつながりがなかったりして、孤立している人が目立つ』と話していました。社会のなかで生きづらさを抱えた人たちが何度も罪を犯し、刑務所に戻ってきてしまうのでしょう」(前出・猪熊さん、以下同)

 同じような生きづらさを抱えていても罪を犯さない人が大半だが、誰もが何らかのつまずきや過失によって犯罪者になってしまう可能性はある。

「元厚生労働省の事務次官で、冤罪により拘置所に勾留された経験を持つ村木厚子さんが『生きる上で多くの困難を抱えた人はみな逃げ場を探していて、そのひとつの形が犯罪ではないかと感じます』と話されていました。犯罪に至らないためには、困ったときにSOSを出せる場所を持っておくことが歯止めになると思います。怒りやストレスをため込んで、それを爆発させてしまい、万引きや薬物につながることも多いので、ふだんから小さなSOSを出してストレスをため込まないことが大切です。また、今の環境がすべてだと思わず、別の世界があることも知ってほしい。そのために手軽にできることのひとつは、本を読むことではないかと考えます」