指南2:財産凍結される前に「認知症」対策は必須

 夫婦でも親子でも手出し不可に!

 認知症の患者数は2025年に約675万人になり、65歳以上の約5.4人に1人になると推測。終末期を考える上で、誰もが認知症になった場合を必ず考えておかなければならない時代だ。

「預貯金の管理、自宅の管理や修繕、介護施設などの入居契約などの手続きなど、本人の同意が求められるものは、判断力が低下し認知症と診断されてしまうと、親子であっても手続きができなくなります」

 そこで、財産の管理などを本人に代わって行うことを法律上で認められた“成年後見人”を決めて、諸々の手続きを進めることが求められるのだが、そこには大きな問題が。

認知症になる前に親子で後見の契約を

「本人の判断能力が低下している段階で後見開始の申し立てをすると、家庭裁判所が法定後見人を選定することになります。

 ところが、必ずしも子どもや親戚が選ばれるわけではありません。財産状況にもよりますが、弁護士や司法書士などの専門家が選ばれることが少なくないのです」

 これは、本人の財産の“家族による使い込み”を防ぐというメリットがある反面、財産管理や介護施設の選定・契約などを選任された専門家が行うため、本人や家族の思いとは違う方向に進むことが。

「近くの施設に入ってほしいと思っていたのに、遠くの施設になってしまったということもしばしば。

 また、夫が認知症になって法定後見で専門家の後見人がつくと夫名義のものはすべて後見人が管理するのですが、あるご夫婦は、預貯金の大半が夫名義だったため、妻が生活に使えるお金が激減して困ったという事例もありました」

 家庭裁判所の判断にもよるが、預貯金等が500万円以上あると子どもなどの親族ではなく専門家が選ばれる対象になりうると明石さんは話す。

 しかも、法定後見人は基本的に途中で変更したり辞めさせることができず、報酬として月2万~6万円の支払いが必要。さらに、施設探しや契約などといった活動には、別途報酬が発生する。

認知症などの増加で注目される「成年後見制度」
認知症などの増加で注目される「成年後見制度」

 成年後見制度とは、認知症などで判断能力が不十分な人の財産管理や身上監護(生活、医療、介護に関する手続きなど)を法律的に支援する制度。

 成年後見制度には2種類あり、違いは、判断能力がまだ十分あるタイミングで後見人になってもらいたい人と契約をしているかどうか。事前に子などと任意後見契約を結んでいれば、判断能力が低下した際の申し立てで「任意後見人」になることが可能で、本人の代理として財産管理や施設への入所手続きなどを行うことができる。
 一方、任意後見契約がないまま認知症になってしまうと法定後見制度を利用し、家庭裁判所が「法定後見人」を選定。障害や認知症の程度に応じて、「補助」「保佐」「後見」の3つの種類があるが、見ず知らずの専門家が選ばれることもあり、本人や家族の意向を反映してもらえないことも。

「家族にとってデメリットが大きいように感じられますし本人にとっても、自分が書いておいたエンディングノートの希望を専門家がどこまで叶えてくれるかは疑問です。

 見ず知らずの専門家に終末期のさまざまなことを決定されるのは本意ではないかもしれません。そうならないためには、認知機能が衰えないうちに親子で任意後見契約をしておくことが重要。

 家族の財産管理や生活に関わる諸々のことを本人の意向に沿って手続きができますし、エンディングノートの内容も生きるというわけです」

法定後見制度の注意点!
○専門家(弁護士、司法書士など)が選ばれることが多く、月2万~6万円程度の報酬が必要
○家族の意向は考えてもらえないことがある
○原則、途中で辞めさせることができない
○財産対策ができなくなる