関わった人すべてに感謝を忘れない

 芸者として成功をつかむために欠かさず実践していた習慣も教えてもらった。

「芸者で売り上げNo.1を目指そうと決めたときに、自分が持っているものを最大限に使おうと思ったんです。私には目や耳、口があってコミュニケーションが自由にできるんだから、関わる人すべてにきちんと挨拶をしようと決めました。

 お客さんや置屋のお母さんだけでなく、お掃除してくださる方、宅配便の人にも」

 そして、寝る前はその日に会った人を思い出して感謝することも欠かさなかった。

「布団に入ったら、その日に会った人を一人ずつ思い浮かべて『今日もありがとうございました』と感謝します。嫌いな人で昼は避けていても、夜になったら一度だけお礼を言うんです。その人から得るものもきっとあると思うので」

 芸者になってしばらくすると、忙しさもあり、感謝を忘れてしまっていた。

「当時は自分の中で感謝と成功が結びついていなかったのですが、今思うとうまくいっているときって、自分の力だけでここにいるんじゃないって思えていたときなんです。

 感謝の気持ちがあると周りの人にも自然と伝わって、応援してくれたり、自分の知らないところでたくさん支えてもらっていたんだと思います」

できるだけ相手を敵とみなさない

 最後に、女の世界である花柳界で生きてきた千代里さんに、人間関係における心の持ち方を聞いてみた。

「私はできるだけ相手を敵とみなさないことを心がけています。本当に嫌いな人と無理に付き合っても苦しいだけなので距離を置きますが、たやすく敵にしてしまうのはもったいないですよね。

 仲間になれれば仕事がもっといいものになったり、楽しく過ごせたりするわけですから。物言いが失礼な人や表現が下手な人も、付き合ってみると意外といい人だったということも自分の経験上あります」

 相手のいい面を見て付き合うことが、人間関係を円滑にする大切なポイント。

「そのような意識を持って接すれば、それが伝わってあちらの反応も変わってきます。お互いが合わせ鏡、なんですよね」

 願いや幸せ、人間関係も結局は自分の心の持ち方で結果は大きく変わってくると、千代里さん。新年こそ心の持ち方を変えるのに最適なタイミング。この機にぜひ、いい運の巡りをつかみたい。

千代里さん●エッセイスト。元新橋No.1芸者。芸者時代の経験を生かし、エッセイや講演で、心の持ち方や日本の伝統芸能の素晴らしさについて伝えている。著書に『捨てれば入る福ふくそうじ』、『福ふく恋の兵法』(ともにSDP)など。
千代里さん●エッセイスト。元新橋No.1芸者。芸者時代の経験を生かし、エッセイや講演で、心の持ち方や日本の伝統芸能の素晴らしさについて伝えている。著書に『捨てれば入る福ふくそうじ』、『福ふく恋の兵法』(ともにSDP)など。
教えてくれたのは……千代里さん●エッセイスト。元新橋No.1芸者。芸者時代の経験を生かし、エッセイや講演で、心の持ち方や日本の伝統芸能の素晴らしさについて伝えている。著書に『捨てれば入る福ふくそうじ』、『福ふく恋の兵法』(ともにSDP)など。

取材・文/井上真規子