妻に支えられた“借金と荒れた日々”

パン店『ラ・パルカ』オープン時。真ん中が夏目さん、右端が妻・亜矢子さん
パン店『ラ・パルカ』オープン時。真ん中が夏目さん、右端が妻・亜矢子さん
【写真】「こだわりがすごい」余計な油を一切加えないピュアチョコレート

「花園パン工房ラ・バルカ」を開業したのは'03年、26歳のときだ。信金から800万円借りて3人の知的障害者を含む5人のスタッフを雇用。夢の実現に向けてスタートしたのだが、最初からトラブルが続く─。

「菓子パン、惣菜パン、食パンとか全部作り方が違うからマルチタスクを求められる。そこで誰かがパニックになると、発酵オーバーになったり、パンが焦げちゃったり。失敗すると全部ロスになっちゃうんですよね。しかもパンの売値は1個150~200円。利益率も低いのに、僕は愛知県の最低賃金を絶対払い続けると決めていたので、経営は大変でした」

 最初の借り入れの返済もできず追加融資は受けられない。貯金も底をつき、ピンチのたびにカードローンで限度額まで借りた。借金はたちまち膨れ上がり、最大7社からトータル1000万円以上に。利息は高く、返しても返しても、借金は減らない。

「先が見えないじゃないですか。不安で不安でたまらんかったですね……。精神的にもかなり追い込まれていたんでしょう。実は、街で暴れて、ちょっとだけ警察にやっかいになったことがあって(笑)。自動販売機の横のゴミ箱をしらふでバンバン蹴っちゃって。で、捕まって、まあ頭冷やしていけって(笑)」

 どん底で、もがく夏目さんを支えてくれたのは、妻の亜矢子さん(46)だ。信金の元同僚で、夏目さんが起業すると信金を辞めてパン屋を手伝うように。毎日深夜3時からパン作りに追われ、結婚式を挙げる余裕もなく婚姻届だけ出したのだが、夏目さんの両親が見かねて結婚指輪を買ってきてくれたという。

 ある日、夏目さんはイラついて翌日の仕込み用に計量してあった小麦粉と砂糖をバーンとひっくり返すと、そのまま帰ってしまった。粉まみれの室内を何も言わずに片づけて、計量し直してくれたのは亜矢子さんだ。

「なんかもう、感謝とかそういうありきたりな言葉ではくくれないですね。彼女がいなかったら、ヤバいな俺、と思っています」

 そのときの様子を亜矢子さんに聞くと、「あんまり覚えていないんですよね(笑)。聞かれるまで忘れてたくらいで」と穏やかに笑う。

 驚いたのは、借金を重ねていく夫に対して、怒ったり、反対したことが一度もないということだ。どうしてそんな対応ができたのかと聞くと、亜矢子さんは「止めようがなかった」とあっさり言う。

「もう自分の中で決めているから、止めても無駄だよなというのはありました。いつも後から報告してきたりで(笑)。だから、『まあ、いっか』って感じで、私もあまり深く考えなかったですね」

 熱い夏目さんと対照的にドライな性格だという亜矢子さん。何が起きても動じず、受け止めてくれた妻の存在なくして、今の夏目さんはなかったに違いない。

 ゆっくりとではあるが皆が成長して、パンもうまく焼けるようになってきたとき、メロンパンが売れ出す。夏目さんは再び借金をして、ボロボロのハイエースを買い、移動販売車を自ら作った。

「メロンパンはよく売れましたね。大きく経営が変わったわけじゃないけど、ダーッと垂れ流していた赤字がグッと止まって、なんとか次の展開ができたんですね」

 その後、社会福祉法人を設立して、とんかつ屋など飲食店とコラボしたり、カフェを始めるなど新しいビジネスに次々取り組んだ。だが、うまく回るところまでは、なかなかたどり着かない。