第二話『甲羅の伊達』には河童が登場する。

「今回の一冊は『週刊新潮』の連載をまとめたもので、挿絵はイラストレーターのこよりさんにお願いしました。前々から『荒野の七人』や『七人の侍』のように、村人みんなで野盗に立ち向かい、そのリーダーが河童という物語を書こうと考えていたんです。

 こよりさんが描いたカッコいい河童の絵を見て、『ワンピース』のルフィみたいな“永遠の少年”にしようと思いました。作中には河童の三平太の腕が伸びる場面があるのですが、まさにルフィのイメージで書きました

「闇バイトを念頭に置いて書いていました」

 野盗の集団の様子は、現代の闇バイトに通じるものがある。

今の闇バイトはSNSで人を集めますが、昔は詐欺師の“儲かるよ”“いい思いができるよ”という嘘話で人を集めていたんですよね。嘘の儲け話だけでつながった人たちが野盗となる場面は、闇バイトを念頭に置いて書いていました

 宮部さんは2006年から三島屋シリーズを書き始めており、ネタ帳のようなものを作っているという。

パソコンの中に“三島屋シリーズ”というフォルダを作り、思いついたことを書いています。“地蔵が飛ぶ”とか後で見ても意味がわからないアイデアもある中で(笑)、このお話はずいぶん前から温めていました。それだけに今回、書き上げることができてうれしかったです

 第三話『百本庖丁』では、美しい悪女が原因で村が焼け、逃げた母と娘が山中で人語を話す山犬と出会い、不思議な屋敷で料理人をつとめた話が語られる。

“迷い家(マヨイガ)”の話を読むと必ずごちそうが出てくるので、『この料理は誰が作っているんだろう?』とずっと気になっていたんです。映画の『南極料理人』を見て、“南極に料理人がいるなら、迷い家にも料理人がいるだろうな”と考えるようになり、ある日、『百本庖丁』というタイトルが出てきて、お話ができあがっていきました

 第一話と第二話は読後にせつない感情が残るが、この第三話は趣が変わる。

迷い家で働いた母と娘はその後、村に戻って生き残った家族に会えましたし、何不自由ない暮らしを送ることができました。このお話では、大変な目に遭ったとしてもそれを乗り越えればきっと新しい幸せが待っている、ということを伝えたいと思いました