先輩芸人からは「金が欲しいとか、女にモテたい、という欲がないと、芸人として大成しないぞ」と、釘を刺されたこともあるという。
「そのときは先輩の手前、金は欲しいっす、と嘘をついてしまいました(笑)。僕はずっと、今たまたま芸人をやっているだけ、という感覚なんです。1年後は辞めて実家にいるかもしれないし、沖縄に移住してるかも。そっちのほうが楽しい可能性もあるでしょ。芸人として何がなんでも、という情熱がない代わりに、不安もないですね」
他人に見せる用の人生じゃなくていい
決して投げやりでも諦観でも、薄情なわけでもなく、ごく自然体。夢や目標を持ち、それに向かって努力することが正解とされる世の中で、何にも執着せず生きていけるのはなぜなのだろう。
「電車に乗ると、しんどそうな人がたくさんいますよね。嫌なことでも我慢して、勉強や仕事を頑張るのはすごいけど、病んでしまっている人は、自分を“すごい人”に見せるための生き方をしてるのかもしれない。僕は他人に見せる用の人生じゃなくていいから、楽しいことが多くて、しんどいことが少ないほうがいいという考えです」
進学校や芸能界など強者だらけの世界で、自分のペースを崩さずに生きてこられたのは育った環境も一因のようだ。
「家族の愛情はすごく感じてます。大学に行かないと決めたときも、お笑い芸人になると言ったときもそうだけど、僕がどういう生き方をしようが、他人に迷惑をかけることさえしなければ家族は僕を見放さない、という絶対的な安心感はありますね」
特に母親のことは大好きで、自身のことを“普通にマザコン”と認める。
「お母さんは、僕の勉強や仕事のことで“○○をしないなら拓哉のこともう知らん”とか言ったこともないし、これから先も言うはずないと思ってます。もし言われたら、そんなパターンあるんや?って、すごくびっくりするし、悲しいでしょうね」
今も芸能界への執着はないが、芸歴10年以上が過ぎ、少し考えが変わってきた部分もあるという。
「例えば賞レースでいいところまでいったりすると、番組のスタッフやマネージャー、家族や友人など、周りの人が喜んでくれるんです。僕は自分のためには頑張れないけど、人のために頑張ることはできそうだと、最近思い始めました。それがひとつの大きなモチベーションになっています」
将来に悩む学生や社会人には“失敗してもいい”とエールを送る。
「大谷選手みたいに替えのきかない人間が失敗したら大変だけど、僕たちみたいな者の成功も失敗も、たかが知れてるでしょ。誰も人の失敗なんて覚えてないから、失敗を恐れたり、落ち込むこと自体おこがましい。
おまえ、大谷翔平気取りかよって自分にツッコんだらいいと思うんです。人生100年あるかないかだから、迷ってる時間がもったいない。気楽にいきましょう」
取材・文/植木淳子
1992年、兵庫県出身。2013年に、高校の同級生とお笑いコンビ「パンプキンポテトフライ」を結成。2021年に「第42回ABCお笑いグランプリ」で決勝進出を果たす。今年の3月でコンビ解散。現在はピン芸人として活動中。