東京高等芸術学校時代は、嵩にとって幸せな時間。体重を増やし、充実感を表現したというが、そこから一転。

「走って、風呂に入って汗をかいて、乾パン1個のシーンに挑む……みたいなのを連日やっていました。僕は役のアプローチとして絶食するなど、体重の増減に慣れてはいるんですけど」

 最終的には水まで抜いたと振り返る。

「ただ、撮影は順撮りではないので、飢餓状態のシーンの後に、まだ元気なときの撮影をしたりするんですね。そういうときは瞬間的に炭水化物をとり、目に活力を宿していました。けっこう無理やりですけど(笑)」

 戦前、戦時下、そして戦後……激変をたどった日本人の価値観。嵩の人生観も、壮絶な戦争経験によって変わっていく。

 しかし、どんな世の中であろうとも、飢えた人に自分の食べ物を差し出す尊さは変わらない。そんな“逆転しない正義”が、アンパンマンの誕生につながっていく。

今後、正義というものを、嵩がのぶに対して言語化して伝えるシーンがあるんですけど、そこに至る達観を戦争中に経験しなければならない。そんな思いでやっています

 今年は戦後80年の節目。やなせたかしさんをモデルとする嵩役との出会いを“運命的”と語っていた北村の、並々ならぬ覚悟が感じられる──。

アンパンマンは難しい……

「もちろん、アンパンマンを描く練習はしていますよ。アンパンマンって、きっと誰しも描いたことがあると思うんですけど、いざ上手に描こうとすると全然描けず“えー!?”ってなってます(笑)。

 まず、丸を描くのって相当難しいんですよ。そこに迷いがあってはいけないし。それこそ高知ロケのときも、ホテルの部屋のメモ帳に、たくさんアンパンマンを描いていました。

 やなせさんは当たり前ですけど何千とアンパンマンを描かれてきて、そのサインもよどみがないんです。やっぱり、そこまでいきたいなと思ってはいるんですけどね(笑)」

『あんぱん』毎週月〜土、朝8時〜(NHK総合)ほか放送中
『あんぱん』毎週月〜土、朝8時〜(NHK総合)ほか放送中

取材・文/池谷百合子