そして音の出どころはやはり屋根裏であると確信した。
「その後、室温も下がり無事に朝を迎え、Hさんと合流して屋根裏に入ると、畳2帖分の空間の床に、小柄な人が膝を抱えて寝転んでいるような形のシミを発見。そこは、あの302号室のにおいがしました」
本能的に違和感を覚えたらやめるべき
屋根裏部屋のある和室は、母親が死んだ20年前には息子の部屋だったと思われる痕跡があったことから、一つの仮説が浮かび上がってきた。
「亡くなった場所がわからない母親は、20年前、息子にここへ閉じ込められて息をひきとったのではと。ドンッという音は、霊になった母親が助けてほしくて屋根裏の床を叩いているんじゃと思い……」
Hさんに昨夜の話をして録画映像と音声を確認すると、あの大きな音だけが、なぜか録音できていなかった。
「私が驚いて2階へ駆け上がる様子は映っていたので、迫真の演技だねと言われてしまって。しかし数日後Hさんから電話があり、気になって自分も物件に泊まったら本当に屋根裏から音がして逃げ帰った。すぐに手放したいから1階の事故だけを告知して売却すると言ってきたんです」
それなら屋根裏を塞ぐ工事だけでもしたほうがいいと伝えたが、すぐに売買された。
「購入者は告知事項にない、いわくにいつ気づくのか。今でもふと頭をよぎります。戸建てを購入する際は、屋根裏部屋の有無を確認するのがいいかもしれませんね」
そこで、最後に児玉さん的視点から内見の際に確認しておくべきポイントを聞いた。
「本能的に違和感を覚えたらやめるべき。人間の第六感というんですか。部屋の不具合や居心地、周辺の環境など、最初に感じた違和感はずっと残るものです。また、事故物件は原則発生から3年程度は契約者に告知をする義務があり、隠蔽する業者はほぼいないとは思いますが、気になる方は契約時に確認をとることをおすすめします」
取材・文/井上真規子
児玉和俊さん 株式会社カチモード代表取締役。賃貸不動産経営管理士。賃貸不動産管理業界で7000室以上の不動産管理に関わった経験などをもとに、事故物件の資産価値を取り戻すためのコンサルティングを行う。著書『告知事項あり。』(主婦の友社)は今年ドラマ化された。