すべてを込めた最初の2行が曲の“命”になる

歌手が歌うことで自身の作った歌詞がより輝くことがうれしい、と作詞家としての思いを語る
歌手が歌うことで自身の作った歌詞がより輝くことがうれしい、と作詞家としての思いを語る
【写真】楽屋で藤井フミヤとの貴重ショット

 '81年のデビュー以来、来年で作詞家生活45周年を迎える。

 これまで約1400曲あまりの歌詞を手がけ、数多くのヒット曲を生み出してきた。そんな作詞家・売野雅勇には独特の流儀がある。

「作詞家には“歌詞が降ってくるタイプ”もいますが、僕は“歩いていたらたまたま言葉が降りてきた”というタイプではありません。だから集中力と執着心と情熱をもって推敲を重ねます。それだけに、歌詞を書いて得られる“痺れるような感覚”は今も昔も変わりません」

 そのために、最初の2行には並々ならぬ情熱を傾ける。

「先に曲を作る“曲先”の場合は、繰り返し曲を聴き、浮かんだメモ書きを見ながらタイトルと最初の2行の歌詞に思いを馳せる。この2行さえ書けてしまえば後は、メロディーの命じるままに描いていけばいいんです」

 シティ・ポップ界のクイーンとして讃えられる杏里のリリック・プロデューサーとして名を馳せ、ミリオンヒットとなった平原綾香『Jupiter』を手がけた作詞家・吉元由美も広告代理店に勤務していたころ、雅勇の弟子となり薫陶を受けた。

「構成力はもちろんですが、最初の2行でどうやってグッとリスナーの心を引き寄せるか。身をもって教えていただきました。

 そしてもうひとつ。売野さんが大切にしていたのが名詞。水平線、防波堤、キャンドルライト、ハートブレイク。情景が見える言葉を耳にするだけで自然と物語が浮かんでくるんです。売野さんからいただいた『角川類語新辞典』は、今も大切に使っています」

 そんな雅勇が“アニキ”と慕う、世界的なおもちゃのコレクター、北原照久は、前世で兄弟だったかもという雅勇にこんな言葉を贈っている。

契りあれば
六つの巷に待てしばし
おくれ先立つことはありとも

(もしあの世でも縁があるなら、死後の世界の入り口で待っていてくれ。どちらが先になるか後になるとしても)

 これは関ヶ原の戦いで西軍に加わって敗れ、自害した大谷吉継の辞世の句。女ばかりか男も惚れる。売野雅勇のオトコっぷりには頭が下がるばかりだ。

<取材・文/島 右近>

しま・うこん 放送作家、映像プロデューサー。文化・スポーツをはじめ幅広いジャンルで取材執筆。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、『家康は関ヶ原で死んでいた』を上梓。現在、忍者に関する書籍を執筆中。