自分が入りたいと思う施設をつくりたい
決めたら行動は早かった。介護のことはまったく知らなかったので、一から勉強し、法人をつくるために司法書士、社会保険労務士に依頼した。法人名は最初「ストーリー」にしようと考えていた。
「認知症でどん底のころによく聴いていたのが、AIさんの『Story』だったんです。〈ムリして笑うコトもしなくていい〉〈疲れた時は肩をかすから〉〈私がキミを守るから〉という歌詞を聴いて、“私、一人じゃないんだ”って勇気づけられたんです」
「いや、『セカンド・ストーリー』にすれば」と提案してきたのは蓮さんだった。理由は「認知症になってから新しい人生が始まったから」。即採用となった。
デイサービスが目指す方向性も明確だった。
「誰一人、私が味わったような孤独感とか、つらい思いをしてほしくない。住み慣れた地域に、自分でいられる居場所をつくる。第二、第三の家族みたいな存在になる。いつか私も施設のお世話になるときに、自分が入りたいと思える施設をつくりたい」

施設の名前は「でいさぁびす はっぴぃ」。オープンは'22年10月だった。しかし初日は閑古鳥が鳴き、従業員5人と一緒にふて寝したという。その後、ケアマネジャーや地域包括支援センターからの紹介で徐々に利用者が増加していったが、最初は“素人集団”と言われた。介護の経験が3年未満の人を集めたからだ。経験豊富な人だと対立する可能性がある施設運営をしようとしていたためだった。
例えば時間割をつくらない。折り紙、歌といったものはやらないと決めていた。しのぶさんは、
「何をするかではなく、誰と何をしたいかを大事にしたいからです。集まったメンバーで“今日は何しよう”と話し合いながら決めていく。でも折り紙したい人がいたらやりますよ」
最初はお弁当を取ろうと思っていた。しかし、やり始めてから変更した。自分たちで食べたいものを話し合って、自分たちが作るのが楽しいし、おいしいと気づいたのだ。
マグロが食べたいという要望に応えた日のことだ。
「私がマグロを料理しているとき、“そんな包丁の使い方いかん”と言うメンバーさんがいたんです。その人、包丁を持って上手にさばいてくれた。私が“(若いころ)何しよったが?”と聞くと“漁師しよった”と。骨についた赤身を捨てていたら、もったいないと注意されて、“スプーンを持ってきなさい”って」
前出の編集者・島影さんは、たこ焼きパーティーが印象深いという。それぞれのメンバーが食べやすいたこのサイズを聞いて作るのだ。
「はっぴぃは“勝手に決めず、本人さんに聞く”を徹底しています。しのぶさんが言うには、“家族や友達だったら、これぐらいの大きさでいい?と聞くでしょ”と。それと同じことをやっているだけよって」
BLG(前出)で学んだ「働くことで社会に参加する楽しさ」を感じてもらうプログラムも行った。