「しのぶちゃんはしのぶちゃんで変わりない」

5歳のころ自宅の前で、快活で負けん気の強い“はちきん”の少女時代
5歳のころ自宅の前で、快活で負けん気の強い“はちきん”の少女時代
【写真】認知症と診断された翌年、子どもたちとの3ショット

 認知症であることをいつ公表するべきかタイミングを見計らっているとき、それは思いがけない形でやってきた。

 '21年11月、「世界アルツハイマーデー記念講演会」が高知で開かれた。その日、丹野さんが講演をする予定だったのだが、あいにく体調を崩し、欠席することに。急きょ、丹野さんの講演原稿を代読して対処することになったとき、代読をしのぶさんが行うことになったのだ。丹野さんの欠席がわかったとき、ちょうど講演会の主催者と会っていたのも偶然だった。

「代読しているうちに、ふいにカミングアウトしようと思ったんです。丹野さんの原稿を読みながら涙が流れてきて、最後に、“私も同じ病気です”と付け加えました」

 ただ、突発的にカミングアウトしたために、メディアには報道しないよう依頼した。というのは、両親や息子に許可を得ていなかったからだ。

「私がいろいろ言われるのはかまわないけど、家族が攻撃されるのは嫌だったから」

 まず両親は、「何を言われても全然気にせん」という答え。しかし子どもたちの反応には拍子抜けした。

「え、もう俺、友達に言うちゅうで」

 しのぶさんは「お母さんに確認せんが?」と言ったが、

「“そんなの関係ない。しのぶちゃんはしのぶちゃんやき、変わりないき、いいんじゃない”と、みんな言いよった」

 蓮さんが、友達としのぶさんの関係を教えてくれた。

「うちには、僕が所属する野球部員とか、弟の部活の子らがよく来るんです、10人以上で。母親はみんなにごはんを食べさせ、恋の相談に乗ることもあり、おまけに泊まらせたりしていた。布団はコミュニティーセンターから借りてきて。だから友達は母をよく知っているんです」

 蓮さんによると、カミングアウトしたことで、しのぶさんに笑顔が戻ってきたという。人がたくさん寄ってきて、「何がしたい?」とか「夢を叶えよう」と、明るい話をしてくれたのだという。

 実は、会社を辞めたあと、しのぶさんは、デイサービスを運営しようと思い始めていた。幼いころから、“おせっかい”なぐらい人のお世話をするのが好き、という性格も関係しているかもしれない。

「小学生、中学生のころまで、私の大切な人を傷つけたりしたら、相手がたとえ男の子でも相手が降参するまでケンカしていました」

 現在放送中のNHK朝ドラ『あんぱん』で話題になった“はちきん”。男勝りの女性を意味する土佐弁だが、しのぶさんはまさにはちきんだった。大切な人を全力で守る、人の世話が大好き─介護の仕事に就くのは自然な流れだったかもしれない。

 しばらくして、若年性認知症の女性から、東京にある社会参加型デイサービス「DAYS BLG! はちおうじ」(以下BLG)を教えてもらい見学に行った。この施設では利用者を「メンバー」と呼び、認知症本人とスタッフがポスティングなどの仕事を一緒にしていた。

「間違ったら、誰かが教えてあげて、助け合っていました。スタッフとメンバーが立場を越えて、人と人との関係性の中で社会と関わっていた。私のやりたいのはこれだ、と」