芝居に対してのこだわりは強い

「例えばセリフで、語尾に“~よ”をつけるかつけないかにこだわったりね。どちらでもいいですよ、とこだわらない人もいるけど、僕はそういう部分を突き詰めたくなる。普段は大雑把なんだけど、芝居に対してのこだわりは強いんです」

 それは自分自身だけでなく、共演者の演技に対しても我慢できなくなる。

「稽古場で若い子に“あのシーンはこうやったほうがいいんじゃないか?”って言っちゃうんだよね。(演出家の)蜷川(幸雄)さんには“おまえ、ちょっと廊下であいつの稽古してやれ”なんて言われて、結果として“よくなったじゃない”って褒められたことも。僕、教えるのがうまいのかな、なんてね(笑)」

 人の芝居を見るのも好き、と話しつつ、

「何でもそうだけど、人のことってよくわかるんですよ。将棋でも、指している本人は自分の考えに入り込んでいるから、これしかないと思う手を指すけど、引いて見ている周りからすると“この手もあるじゃん”となるじゃないですか。

 僕もね、昔ある女優に“あなたほどわがままな人はいない”と言われたことがあるんです。え、そうなの? 僕はわがままになりたいと思っていたからうれしい、と返したら“わがままじゃないと思っていたの?”とあきれられて(笑)。ほかの人にも聞いたら、みんな僕のことをわがままだって言うの。そのとき思いましたよ。“自分のことが一番わからないんだな”って」

 そんな“わがまま”な彼に、これからやりたい役は? の質問を投げてみた。

「“この役をやりませんか”と、オファーをいただいて、これ僕じゃないよな、と思うこともあります。でも、若いころは、これはできないよ、なんて断った役も、相手が僕にやらせたいと思っているならやってみようかな、と思うようになりました。あなたのイメージを倍ぐらいにしてお返ししましょう、みたいな感じ。

 結局、自分のことは自分が一番わからないんだから(笑)。こんなことを僕にやらせたい人がいるんだ、ということを自分で面白がってね。こんな役をやりたい、というより来るものは拒まず、ですね」

 人生、まだ半分と豪快に笑う西岡。想像もしない役を演じる姿を、ぜひ見せ続けてほしい。

『新 画狂人北斎』

絵に魂を捧げ、生涯探究し続けた絵師・葛飾北斎を西岡が熱演。10月17日より東京・紀伊國屋ホールを皮切りに、全国で公演。詳細は、公式HP

取材・文/蒔田 稔 撮影/近藤陽介