その一方で、イギリスでは支援団体による精神的なサポートや交流の場の提供が、日本よりも断然多いという。
他国の人材で介護問題をカバーするのは現実的ではない
「おそらく、キリスト教の“友愛”の精神が根づいているからでしょう。介護する家族が抱えるメンタル面をケアしたり、必要なアドバイスを提供する民間の支援団体が数多く存在し、資金も寄付金などによって集められています。
例えば、認知症の方(とその家族)が集うカフェでは同じ境遇の人たちが情報共有したり、大手の映画館が認知症の方を優先する映画上映会を実施したり、認知症であっても楽しめるような工夫や配慮が施されたイベントが定期的に多数開催されています」(谷本さん)
オープンに語り合える場があることで、イギリスでは認知症=ネガティブとはあまり捉えられていないそうだ。確かに、日本では認知症を含めた介護へのイメージに対して、過度に悲観する傾向があるかもしれない。
では、アジアはどうだろう? 上海出身の中国語講師であるAさんに話を聞くと、中国ならではの介護事情が広がっていた。
「国に貢献した人─公務員や共産党員で立場がある人は、最後まで国が面倒を見てくれます。私の両親は共産党員だったため、医療費から住居費まですべて国が払ってくれました」(Aさん)
また、介護保険制度についても、2016年から北京、上海、青島といった15都市を皮切りに、試行段階を経て開始されている。働いている人は、介護保険料に相当する支払いが生じるという。
「日本でいうデイサービスのような介護保険サービスを提供する施設も増えています。ただ、中国の方針では高齢者の7割ほどは、自宅で老後を過ごすことが望ましいとされています。昔の人は特にそうですが、中国人の感覚では、親を老人ホームに入居させるのはいいことだと思えないんです。
そのため、住み込みで働くお手伝いさんを雇うなど、家で介護をするという人が少なくありません」(Aさん)
実は、こうした形で在宅介護をヘルプするケースは珍しくない。前出の結城さんが説明する。
「ドイツでは現金給付があると先述しましたが、そのお金でハウスキーパーを雇っているケースが多い。主に、東欧圏や北アフリカ圏の人材です。決して賃金がいいというわけではありませんが、彼らにとっては自国の通貨よりユーロのほうが強く、よい出稼ぎ先になる。
しかし、日本ではこのようなことは起きないでしょう。他国と地続きでつながっていないことに加え、円が弱すぎるため、働き先として選ばれなくなっている。他国の人材で介護問題をカバーするというのは、現実的ではない」(結城さん)