現在、日本の介護業界は、深刻な人手不足に直面している。2025年には約32万人もの介護職員が不足するとも予測されている。先の上海出身のAさんは、こんなことを漏らす。
介護を産業化すれば介護職員の給料も上がる
「中国では、介護サービスは増えているけど、介護をする人の能力が十分ではない。かつては介護士の資格が存在しましたが、廃止され、今も基準が曖昧なんです。その点、日本は介護士の資格が明確だし、お風呂の入れ方一つとっても本当に丁寧だと思う。中国からすれば、すごくうらやましい(笑)」
日本の介護制度による給付金は、開始された2000年度の約3.6兆円から、2016年度には約10兆円に達し、年々、介護保険料も上昇し続けている。
しかし、介護職員の給与水準は、他業種と比較して低い傾向にある。「せっかく優れた制度をつくったのに、このままでは活用できなくなる」。そう結城さんは警鐘を鳴らす。
「G7全体にいえることですが、どの国も介護職員の給与水準は高くない。しかし、安い労働力によって、何とか維持できています。一方、日本はそうならないわけですから、日本独自の構造をつくっていかないといけない。
日本は、いまだに年間6兆円もの公共事業費を投じている。メンテナンスの公共事業だけにして、新しいインフラを造らなければ年間3兆円ほどになる。浮いた3兆円を介護業界に投じて、介護を産業化し、内需を拡大できれば、介護職員の給料も上がります」(結城さん)
介護は、もはやインフラである。道路を造るよりも、人道をつくったほうが建設的だ。
「ロボットやICT(情報通信技術)で解決できるのではないかという声もありますが、あくまでサポートに過ぎません。例えば、“眠りスキャン”という技術は、高齢者が寝ているか寝ていないかの判別ができるため、徘徊していることがわかる。
しかし、徘徊している高齢者を捜しに行くのは、最終的に人間です。介護の現場は、人材なしでは成立しないのです」
特別養護老人ホームの入所待機者は、依然として全国で25万人を超える。希望しても入所できない「介護難民」は増え続けている。日本は世界に誇る介護制度を有しているが、このまま何かしらの対策をしないと崩壊は免れないだろう。
取材・文/我妻弘崇
結城康博 淑徳大学総合福祉学部教授。著書に『介護格差』『日本の介護システム 政策決定過程と現場ニーズの分析』(共に岩波書店)などがある。
谷本真由美 1975年、神奈川県生まれ。元国連職員。著書に『世界のニュースを日本人は何も知らない』シリーズ(ワニブックス【PLUS】新書)など著書多数。