MCの“原点”と“あの人”との出会い

初めてバンドを組んで歌い出した15歳。スイッチが入るというキャッツアイをかけてのステージ
初めてバンドを組んで歌い出した15歳。スイッチが入るというキャッツアイをかけてのステージ
【写真】初めてバンドを組んで歌い出した15歳の横山剣、キャッツアイをかけてのステージ

 独自のMCで人気を集めているクレイジーケンバンド。その原点は、小学5年生のときに出合った中古レコードの実演販売にある。

「世話になってる後ろめたさもあって、放課後まっすぐ伯父さんの家に帰るのが嫌でね。同級生の植木屋でバイトを始めたんだ。そうしたら、そのすぐそばに焼き鳥屋と並んで中古レコードの屋台が出ててね、そこの親父とすぐ仲良くなった」

 屋台に中古レコードを並べただけでは、誰も見向きもしない。店主の口上も辛気くさくてまったくウケない。そこで店主に代わって剣がレコードをかけながら、エコーをギンギンにきかせてマイクパフォーマンスを披露した。

「奥さんは美人だね!! 女性は半額!! 美人はタダ!!」

 まるで『男はつらいよ』の寅さんみたいな口上でテキ屋風に実演販売をする。

「その場のノリで替え歌や替えメロ、即興オリジナル曲を歌ったり。やりたい放題でね。ほとんどジャマイカンなノリでワイルドにレコードを売っていた。人前でお金をもらって歌ったのは、これが最初の体験だったな」

 しかもバイト代のほかに段ボール箱いっぱいのレコードをもらった。このレコードの山から剣は、さまざまな作曲法を学んでいった。

 そんな剣に衝撃的な出会いが訪れた。デビュー前のロックバンド「キャロル」である。

「キャロルを初めて見たのは、小学校6年のとき。いとこに誘われ、神田共立講堂へ行ったんだ。パンフレットにも書かれてない、飛び入りのバンドのひとつがキャロルだった」

 パッツンパッツンの革のツナギを着て、頭はポマードを塗りたくったリーゼント。柳屋の強烈なポマードの匂いが客席までプンプン臭ってきた。

「川崎から来たキャロルです。今日はちょっとあがってます」

 龍のような顔の長身の男がそう語る。でも緊張しているようには見えなかった。

「しなやかで挑発的な身のこなしがセクシー。その人こそ、永ちゃん(矢沢永吉)だった。横浜のライブハウスでセミプロ時代を送っていたから、どことなく横浜の香りがする。でも、この境遇から這い上がってやるぞみたいなパワーに満ちあふれていたな」

 デビューシングル『ルイジアンナ』がリリースされると、剣は早速レコード店で手に入れた。

「クレジットを見たら作詞・ジョニー大倉、作曲・矢沢永吉。この2人の手によるオリジナル曲であることにまず驚いた。

 メロディーもいいし、コード進行もサイコー。演奏もズバ抜けてうまかった。歌詞は甘い天使のような可愛いラブソングなのに、その背景に浮かぶのは日本のデトロイト、京浜工業地帯の恨みに濡れたドス黒い情景だった」

 あれから半世紀以上。好きすぎて、剣はいまだに矢沢に会えないでいる。