周囲に相談しないで陥る“罠”
尾上さんが指摘するのが「終活詐欺」の存在だ。終活への関心の高まりを悪用し、シニア世代から財産をだまし取ろうとする悪質な業者がいるという。
「“貴重な財産を安全に管理サポートします”、“不要になった物を高額で買い取ります”などいかにも親身になっている風を装い甘い言葉で近づいてくる業者には、注意が必要。安易に個人情報を提供したり、契約書の内容をよく確認せずにサインしたり、その場で即決したりすることは絶対に避けるべきです」
少しでも疑問に思ったり、不安を感じたりした場合はいったんその場を離れ、周囲や地域の消費者センターなどに相談しよう。
「不安そうな表情でひとり行動をしているシニアは業者にとって“カモ”。金銭トラブルに巻き込まれないためにも普段から家族や友人など、周りとのコミュニケーションが大切なのです」
終活しないという選択肢も
そもそも終活とは残りの人生を充実させるための活動だ。
「あの人はどうしているだろう、など会いたい人に会い、行きたかった場所を訪れる。好きなものの写真を撮ったり、その写真を誰かと共有する。周囲を巻き込みながら楽しく進めていきたいものです」
終活を大きな宿題ではなく、小さな安心の積み重ねとして取り組むことをおすすめするという。
「もし死を意識しすぎて精神的に不安になったり、あれをやらねばこれをやらねばと負担になってしまうようであれば、終活をあえて“しない”選択肢があることもお忘れなく。心がぐっと軽くなるかもしれません」
ブラック終活に陥らないためのポイント
自分らしい最後を探求し、終活の本来の目的を常に意識する
ひとりだけで進めず、終活を家族や周囲と共有する
断捨離のしすぎに注意。財産や物を処分しすぎない
信頼できる機関のサポートを活用する
ひとりで進めないで!業者が斡旋したブラック終活事例
事例1. 顧客情報を収集する終活セミナー
神奈川県下の某市で、過去に高齢者を集めてエンディングノートの書き方を教えるセミナーが開催された。
「参加者がノートを書き終えると主催者がノートを回収し、『家族には私があなたの希望を伝えるから、何かあったら私に連絡するよう言ってください』と指導しました。本来ならエンディングノートは自分で管理して、数年単位で書き換えていくもの。セミナー主催者がノートを管理するなど、これは明らかに業者が顧客獲得を目的としたものです」
事例2. すすめられるままに投資
相談者の不安を煽りつつも、実は業者の都合のよいように話を進める。それがブラック終活業者の特徴だ。それによって、財産を失ってしまうような話も。
「『損をしますよ』『やらないと後悔しますよ』という言葉に煽られ、自分の葬儀を高額で生前契約してしまったり、自身の葬儀や墓を用意するために資金を増やそうと、ファイナンシャル・プランナーのすすめるままに投資を始めて、老後資金を失ってしまうケースもありました」
教えてくれたのは尾上正幸さん
株式会社ニチリョク取締役。葬儀業界で30年以上の経験を持ち、個人葬から企業葬、著名人の葬儀まで多様な案件に携わりながら、葬送儀礼の変化に向き合い、遺族や関係者の心理的サポートにも継続して取り組んでいる。書籍『きっと大切な人と話したくなる わたしと家族の人生行路 令和7年版』(ラーニングス)
<取材・文/諸橋久美子>