先生は宮藤さんに、実際に起きた出来事や、現場で働く思いなどを話したそうだ。時には、23区外からも救急車がやってくる。春山記念病院は、まさしく「最後の砦」なのだ。
ここで働いたら、どこの病院でも対応できるのではないか
「昨今はインバウンドの患者さんも増えました。日中の時間帯であれば、英語や中国語に対応できるスタッフがいるのですが、救急外来にはいない。そのため、時にはGoogle翻訳を片手にコミュニケーションを取りながら診療することもあります」
中には、何語を話しているのかわからないケースもあるというが「本当に大変なのは救急隊」だと藤川先生は語る。
「僕たち(病院スタッフ)はどういう症状か、どんな人なのかということがわかったうえで対応することができますが、救急隊は何もわからない状況で現場に到着する。そこで得た一次情報があるから、僕らは対応できる。
救急隊は、倒れている人の身分証を確認したり、興奮している患者をなだめたりと、医療行為以前の気苦労も絶えません。救急隊員あっての救急外来でもあるんです」
緊急性のない救急要請もあるため、救急車を有料化したほうがいいという声も少なくない。だが、「日本人は我慢強いため、有料にすると本来呼ぶべき患者さんが我慢をしてしまう可能性がある」と藤川先生が危惧するように、極端な強弁は控えるべきだろう。
昨年12月29日の春山記念病院の救急患者受け入れ数は、救急車45台、直来42人、計87人に及んだという。同病院が頼られている証左である反面、それだけ疲弊も増していく。
「他の病院でも、もっと救急外来の対応を増やしてほしいという思いはあります。ですが、追加報酬があるわけではないので、積極的になれない気持ちもわかるんです。僕らは、異常に高いモチベーションだけで救急外来の対応をしている変わり者ともいえる(笑)。
ですが、今後は診療看護師(NP/ナース・プラクティショナー)の数を増やすなどして、救急医療体制の強化を図っていかないといけない局面を迎えていると思います」
テレビドラマ『ザ・トラベルナース』(テレビ朝日系)で、その存在が知られるようになった「診療看護師」は、医師と看護師の中間的な立場で、より専門的な処置を行うことができる。
だが、日本ではまだ800人程度しかおらず、数は足りていない。こうした人材を育成し、包括的に医療体制を強固にしていくことが望ましいと藤川先生は提唱する。
「そのうえで、われわれは不安を取り除き続ける存在でありたい。救急医だけが取り上げられがちですが、スタッフみんながすごいんですよ。すさまじい数の患者さんを、看護師はたった2人で対応し、事務スタッフは休日もサポートしてくれます。
ここで働いたら、どこの病院でも対応できるのではないかと思うほど(笑)。春山記念病院が、“野戦病院”のように機能しているのは、決して私1人の力によるものではありません」
医師、看護師、事務スタッフ、そして救急隊。医療に関わるすべての人々がいるからこそ、今日も「守り神」でい続けられる。
取材・文/我妻弘崇
藤川翼先生 春山記念病院副院長。2013年、東京医科大学卒。東京医科大学病院救命救急センター勤務後、2023年から春山記念病院救急科勤務。日本救急医学会専門医。東京DMAT隊員。











