史実に近いと、かなり“悲劇”に
しかしなぜ、そんな展開になっているのか。それは、“史実”が大きく影響しているのだという。
「ヒロインのトキは没落士族の一人娘で、実は養子という設定ですが、これは史実通りです。婿養子を迎えて生活苦から逃れようとしたが、想像以上の貧困さだったのか、婿は耐えられず“失踪”してしまう。これも史実通りです。ただ、モデルとなった小泉セツの家は、ドラマのような貧しき中にも“笑い”があるような家庭ではなかった。
極貧のかなり悲惨な生活を送っていて、セツは小さいころから働かねばならず、小学校に行くこともできなかったため、満足に読み書きもできていなかったそうです。セツの生母は生来の“お姫様気質”で、夫を亡くした後は自力で生きていくことができず、物乞いのような生活をしていたとも。セツが失踪した夫に会いにいくと、“何しに来たんだ! 帰れ”とけんもほろろに追い返されてしまう。ドラマとは全く違います」(同・映画ライター)
史実から大きく乖離するわけにはいかない。かといって史実に近いと、かなり“悲劇”になってしまう。第29回の放送で、北川景子が演じるトキの生母・タエが物乞いをしているシーンが放送されたが、胸が痛くなった視聴者は多いだろう。
「それでも全体としては、笑いを取る台詞回しで悲惨さを感じさせないような演出にしているのでしょう。朝ドラでも『おしん』のような、涙なくしては視られないドラマが受けた時代がありましたが、今の時代、朝からそんなドラマはしんどい。視聴者は、出勤や登校の前に重い気持ちになりたくないですからね」(民放プロデューサー)
また、劇中に出てくる『シジミ汁』がフィーチャーされているのも興味深い。
「『おむすび』や『あんぱん』が放送されたからといって、おむすびやアンパンが特に大きく注目されたということはありませんでした。『ばけばけ』でしつこく登場するシジミ汁に“いくら好きでも毎日はあり得ない”という声も出たりしましたが、一方で“飲みたくなった”という声も多く、NHKではシジミ汁を特集したりしていました。これまで、そんなことはありませんでしたよ」(前出・テレビ誌ライター)
『ばけばけ』好評の秘密は、“斬新さ”にあったようだ。これまでになかった朝ドラ像の開拓で、今後の展開が増々楽しみになる――。











