離婚後に貫く節制しない生活

15歳で集団レイプに遭った女性の手記を映画化した『私は絶対許さない』は、フランスのニース国際映画祭で外国語部門の脚本賞を受賞
15歳で集団レイプに遭った女性の手記を映画化した『私は絶対許さない』は、フランスのニース国際映画祭で外国語部門の脚本賞を受賞
【写真】和田さんがこれまで監督として手がけてきた映画作品

 最新刊『65歳、いまが楽園』(扶桑社新書)には、「簡単に言うことを聞かないシニアが社会を変える」「介護ロボットがいれば一生自宅で過ごせる」など、斬新で前向きなメッセージが並ぶ。そんな和田さん自身にとっての“人生の楽園”とは、どんなものなのか。

 週4回は好物のラーメンを食べ、毎晩ワインを嗜み、時に高級ステーキも。節制よりも食の楽しみを優先する生活だという。 

「シニアは我慢よりグルメ。そのほうが栄養も免疫力も上がる。僕は血圧も血糖値も“人体実験”のつもりでほったらかしにしてるからさ」

 病気の不安について聞くと、「考えたってしょうがないじゃない。死ぬときは野垂れ死にだと思ってるからさ」と覚悟をにじませながら、冗談交じりに語った。

 実は、10年ほど前に離婚したことも初めて明かした。

娘たちには、勉強の仕方となぜ勉強しなければならないのか、という価値観から教えるのが和田さんの子育て方針
娘たちには、勉強の仕方となぜ勉強しなければならないのか、という価値観から教えるのが和田さんの子育て方針

「結婚生活が苦しくなって、子どもが大きくなった後に離婚した。娘たちが弁護士や医者になったり、東大に入ったのは、僕のおかげみたいに思われがちなんだけど、それはまったくなくて、100%妻の力。僕がそもそも、ちゃんとした家庭なんて持てるはずのない人間だからさ。でも、子どももおかしくならなかったし、妻には感謝してます」

 現在は1人暮らし。洗濯も掃除も自分でこなし、不便さを感じながらも「人生を楽しむほうを選んじゃってるからさ」とボソリ。恋愛については「今はしてないし、この病気(前立腺肥大)で困ってる」と苦笑いする。

 そんな自由な暮らしぶりは、お金の使い方にも表れている。印税の多くをワインに、そして政党や映画にも惜しみなく私財を注ぎ込む。

「たくさん使いたいから、たくさん働くだけ。死ぬまで仕事するつもりだよ。節約するより、好きなことにお金を使うほうが経済も回るし、若々しくいられるからね。受験だけじゃなく、老後も人生も、すべては要領ですよ」

高齢者の医療へのかかり方についても持論が止まらない。慢性期医療における薬中心の治療方針については、「風邪や頭痛では薬を控える人が多いのに、血圧や血糖値の薬は一生飲み続ける。それが当たり前になっているのがおかしいんだよね」と疑問を投げかけた(撮影/近藤陽介)
高齢者の医療へのかかり方についても持論が止まらない。慢性期医療における薬中心の治療方針については、「風邪や頭痛では薬を控える人が多いのに、血圧や血糖値の薬は一生飲み続ける。それが当たり前になっているのがおかしいんだよね」と疑問を投げかけた(撮影/近藤陽介)

 年齢にとらわれず働くことをすすめ、「レンタルおばあちゃん」のような新しい働き方も、人生を楽しむ方法のひとつとして紹介している。

 現在の生き方に至るまで、孤独と向き合う時間もあった。少年時代には「友達は要らない」と、人と距離を置き、率直な性格ゆえに組織と衝突し、孤立したこともある。今では、本音で語り合える仲間がそばにいる。

 和田さんが描いた“楽園”は、最新小説『新楢山考』(文藝春秋『オール讀物』'24年11・12月号掲載)に結実している。物語では、捨てられた老人たちが山で寄り添い、獣の肉を食べ、自由な性を楽しみながら、新たな世界を築いていく。亡き妻を追って死のうとしていた主人公が、そこで生きる歓びを見つける姿に、「悩まず書けた」と語る自身の思いが重なる。

 今後のことに触れると、「うーん」と唸り、こう続けた。

「結局、どんな生き方をしても、一生は一度しかないし、死なない人はいない。毎日、食いたいものを食い、飲みたいものを飲むって、そういう話ですよね!」

 昔のボス、前出の島地勝彦さんは言う。

「和田はね、一言でいえば、ロマンティックな愚か者なんですよ」

 それは、自分自身が納得する人生を追いかけている男への、最大の賛辞なのかもしれない。

<取材・文/森きわこ>

もり・きわこ ライター。東京都出身。人物取材、ドキュメンタリーを中心に各種メディアで執筆。13年間の専業主婦生活の後、コンサルティング会社などで働く。好きな言葉は、「やり直しのきく人生」。