妻からの手紙
そして迎えた東京大会だが、山田選手の調子は今までにないほど最悪なものだった。
「7月に子どもが生まれ、引っ越しもして、環境も大きく変わりました。熱が出て、治ったと思ったら、またぶり返したり。“なんで体調管理くらいできないんだ!”と自分でも嫌になるくらいでした。デフリンピックが始まる直前には、400メートルを棄権することも本気で考えていました」
山田選手を救ったのは、中学生時代の同級生である妻からの6枚の手紙。その言葉が彼の心を軽くしたという。
山田真樹選手を15年間支え続けてきた妻の鮎美さん。'25年7月には第1子となる長女が生まれた(c)2025U-8,Inc.PhotobyHiharuTakagi
《アスリートとして活動するには「楽しい」という気持ちだけじゃなくて、責任も必要だよね。中高大の頃と比べてものすごくしっかりしてきて、人間としても社会人としても男としても一回り二回り皮がむけたなと惚れ惚れします。でも、私は楽しさ多め責任少し的な気持ちで走って欲しいなと思うのです。どんなタイムでも、そんな結果でも、真樹が真樹らしく走れたらそれで私は幸せです》(原文ママ)
結果、メダル3つ獲得という素晴らしい成績で大会を終えた山田選手。実は彼にはもう一つ大きな夢がある。それは表現者の道だ。'22年には、フジテレビ系で放送された連続ドラマ『silent』に出演したことも。
「実は俳優としても活動しているんです。ろう者をテーマにした作品はこれまでたくさんありますが、いずれも健常者の俳優が演じてきました。ろう者の中には、それに違和感を覚える人もいます。そういう役柄を演じていきたい。それに、ろう者をテーマにした作品でなくても、普通の作品の中にろう者の役があってもいいと思うんです。僕を使ってもらうことで、作品の中に自然とろう者が溶け込んでいく。そういう世界を自分がつくっていきたいんです」
聴覚障害のことをもっと知ってもらおうと、彼は発信を続けていく─。











