暮らしの影響「小売店」
ネット通販の普及により、“爆買い”はすでに減少傾向にあるため、ドラッグストアや家電量販店など店舗の一部が閉店する可能性も。一方、中国からの輸入が困難になればコスメや生活用品の価格が上がるリスクは残る。
*
実は消費者にとって深刻な物価問題は、ほかにある。
「レアメタルやレアアースは、スマートフォンやパソコン、さらには医療機器の製造にも不可欠です。中国が供給を絞れば製品価格が上がります。加えて医療機関や通信事業者が導入する精密機器の設備コストも高騰し、最終的にはスマホ料金や医療費という形で私たちにも跳ね返ってくるのです」(前出・北上氏、以下同)
もう一つが「学費」だ。中国人留学生頼みだった大学や専門学校、高校などは、学生が減り、学費の値上げが避けられない。
「MARCHなど中堅から上位の私立大でも、中国人留学生減少で生じる収入減を埋めるため、学費を上げざるを得ないでしょう」
北上氏は、「短期的には毎日の買い物が少しきつくなる程度の物価上昇で収まる」と分析する。物価が危険な状態になるのは、分断が長引いたときだ。
その場合、複数の研究機関の試算では、日本は数十兆円相当のGDPを失う可能性がある。これはリーマンショックやコロナ禍を上回る規模で、失業や倒産が急増、賃金やボーナスも大幅カット、子育て支援・奨学金・医療・介護サービスの縮小にもつながる。
一方の中国経済も深いダメージを免れない。前出の政治ジャーナリストは「中国目線でいうと、実は逆に焦っています」との見方を示す。
「中には『中国人がいなくなって快適』という人もいるでしょうが、捉え方次第なんです。今は快適でも、中長期的に見ると経済的な損失は大きくなり、家計には大きな影響が出ます。長引けばお互いに痛い目を見るでしょう。
ただ、今回の騒動は、日本側にとって持続的なパートナーシップを築ける相手を見極めるタイミングでもあります。感情抜きで賢く距離を置きつつ、儲かる部分は儲ける。健全な共存ビジネスがいちばん賢い選択なんです」(前出の北上氏)
日中双方はビジネスには欠かせない存在となっている。利益を第一に、いい距離感を保つことが今後の日中関係の課題なのかもしれない。
取材・文/当山みどり











