「人生終わったと」絶望した瞬間

 明細胞性歯原性悪性腫瘍はまれな上、もりひさんのような若い男性が罹患するケースはほとんど前例がない。治療は迷走を続け、抗がん剤治験薬での治療を始めている。これが思わぬ結果を生んだ。

「治験薬を飲んでいたら、頬が黒ずんできて、顔に穴があいちゃった。病院の先生は、時期が重なっただけと言うけれど。症例がないから、結局何が原因かわからないんです」

 昨年5月のことだ。前向きにがんと闘ってきたもりひさんも、これには大きなショックを受けた。

「もう何も考えられなくなって。あの時は、人生終わったと思いました。どう死のうかしか考えていませんでした」

 もりひさんを救ったのは、周囲の人々の存在だった。

「周りの友達がすごく支えてくれて、泣きながら生きてくれって言う友達もいれば、暗くなっていてはよくないからと、笑いながら励ましてくれた友達もいました。彼女は普段は泣き虫なのに、あの時は泣かなかった。私は泣いてないから頑張って、と言ってくれました。そんなこと、なかなか言えないですよね」

もりひさんが闘う希少がんの治療法は確立されておらず、現在も右頬には穴があき、徐々に大きく広がっている
もりひさんが闘う希少がんの治療法は確立されておらず、現在も右頬には穴があき、徐々に大きく広がっている
【写真】抗がん剤の影響か…右頬に穴が空いているもりひさん

 昨年5月、動画配信をスタート。わずか半年あまりで10万人のフォロワーを得ている。フォロワーの声が何よりの励まし、と話す。

「ありがたいことに、毎日何千通とコメントをいただいています。私も病気で死のうと思ったけれど、動画を見て頑張ろうと考え直しました、なんて声もありました。逆に僕が励まされることのほうが多くて、力になりまくってます」

 動画で趣味のギターを披露すると、「生で聴きたい!」との声が多く寄せられ、地元大阪でワンマンライブを敢行。100人収容の会場のチケットが一瞬で売り切れた。ミュージシャンとしてステージに立つのはもちろん初めてだ。

「もう震えてました。実はあの時、輸血が必要なくらいひどい貧血だったんです。成人男性のヘモグロビンが通常14〜15g/dLで、僕は7g/dL。フラフラの状態だったけど、ステージに立ったらアドレナリンが出て。九州や東北など遠方から来てくれた方もいて、こんなに応援してくださるんだと、気が引き締まりました」

 ライブは大成功。だが時を前後して、新たながんが見つかる。

「体表に扁平上皮がんの細胞が見つかって。キイトルーダで治療しています。自分の免疫細胞を使った免疫療法です」

 鍼灸師の仕事にやりがいを感じていたが、休職を決意。

「痛みがすごくて、泣きながら施術していたんです。貧血もひどく、フラフラしっぱなし。患者さんにも気を使わすし、医療人として自分の体調が悪いと治療にならないので」