「史実の空白」という壁

 しかし、『風、薫る』のもう一人のヒロインのモデル、鈴木雅さんの出身地である静岡県は、現時点では驚くほど静かなままだ。まるで放送が始まることすら知らないかのように、公式なPRの動きはほとんど見られない。そこには、静岡県が「やりたくてもできない」深刻な事情があるという。

NHKが公開した朝ドラ連続テレビ小説『風、薫る』のメインビジュアル(公式サイトより)
NHKが公開した朝ドラ連続テレビ小説『風、薫る』のメインビジュアル(公式サイトより)
【写真】『ばけばけ』ロスに追い打ち? 絶賛されている『風、薫る』のメインビジュアル

「理由は明確で、鈴木雅さんに関する歴史的資料があまりに少なすぎるのです。大関和さんについては、家老の娘という立場もあり、経歴や著作がある程度残っています。ところが鈴木雅さんに関しては、静岡のどこで生まれ、どのような少女時代を過ごしたのかといった背景がほとんど不明なのです。家族や友人が書き残した一次資料も見つかっていません」

 その資料の少なさは、朝ドラ放送に合わせた関連本でも浮き彫りになっている。

「今回の放送に合わせて実在モデルに関する解説書がさっそく出版されていますが、大関和さんの経歴を記した年表が4ページにわたって詳細に掲載されている一方で、鈴木雅さんに関しては1ページどころか1行も年表がありません」

 資料がないということは、ドラマとして描く際に「創作」で埋める部分が多くなることを意味するが、実際に、『風、薫る』の看護考証を担当している日本看護歴史学会のメンバーで、天理大学医療学部看護学科の鈴木紀子教授は大学のホームページで「鈴木雅さんは実物とはかけ離れた描かれ方をしています」と指摘している。

 鈴木教授によれば、実際の鈴木雅さんは士族の娘であり、英語が堪能で通訳や実習指導もこなすハイスペックな才女であったというが、こうした“才女”としての実像に対し、ドラマではどのようなキャラクターとして描かれるのだろうか。

 栃木の熱狂と、静岡の静寂。この対照的な温度差を抱えたまま、17年ぶりのダブルヒロインによる看護の物語は、3月30日にスタートを切る。