紀子さまとの心温まるエピソード
紀子さまは1990年6月29日、秋篠宮さまと結婚したが、その直前の5月、私は紀子さまの両親である川嶋辰彦・学習院大学名誉教授(故人)と妻、和代さんに紀子さまの子ども時代の思い出話などを聞いたことがある。そのとき、川嶋夫妻はオーストリア・ウィーンで暮らしていたころの紀子さまと弟、舟さんとの、スキーにまつわる次のような心温まるエピソードを紹介してくれた。
辰彦さん「そう、オーストリアにバドガシュタイという温泉スキー場がございます。研究所のスキー旅行に参加して、仲間の家族と一緒に出掛けました。妻と僕はふもとでクロス・カントリーを楽しみ、紀子と舟が研究所の仲間と一緒にリフトを乗り継ぎ、上のゲレンデまで登って滑っていたときのことでございました。天候が急変し、強風のためにリフトが運転不能になってしまいました。連絡を受けた妻と私が急いで駆けつけ、紀子と舟を斜面の下で待っていたのですが、気になって……」
和代さん「小さなお子さんには、皆さん大人の方がついて上のゲレンデにいらしてました。私たちは、子供二人だけで登らせていたものでございますから、リフトが止まったとき、上にとりのこされた人々の中では、紀子と舟が一番小さなペアでございました」
辰彦さん「紀子が舟を連れて上のゲレンデを発った、という連絡が入りましてから、かなりの時間を経て、紀子がスキーをはかせた舟を自分の両足の間にはさんで、大きく蛇行しながら濃い霧の中を降りてまいりました。待っていた時間は、長く感じられたのでございますが、実際はどれくらいかしら?」
和代さん「一時間程度でしょう。普通に滑ったらはるかに短い時間で下って来ることができるのでしょうけれど。遥かな霧の中から豆粒のような姿を現わして、滑って来る二人が見えました。降り着きましたときには、まわりの方々から、紀子よくやったー、エライ、エライ、と誉めていただきまして。あれはかなりの勇気がなければ、できないことでございましたでしょう」
辰彦さん「親の単純な感傷なのかも知れませんが、懐かしい想い出ですね」(『毎日グラフ臨時増刊』より)
このとき紀子さまは11歳か12歳の少女で、舟さんは4歳か5歳の幼児だったようだ。そんな紀子さまも今年9月11日には還暦の誕生日を迎える。
《これまで国内外で重ねてきた経験を活かして、務めに励んでもらいたいと思います。そして彼女らしい生き方、幸せを心から願っています》
昨年、59歳の誕生日に際して公表した文書に〈佳子の結婚や将来について〉という項目があり、その中で紀子さまはこのように綴っている。佳子さまの幸せを、心から願っている母親の真情がよく伝わってくる。
今年もまた佳子さまは、母親と一緒にたくさんの素晴らしい思い出を築いていくことだろう。
<文/江森敬治>

















