電話越しで一緒に食べた深夜のチョコモナカジャンボ

「有名になってどうするの?」より

燃え殻『有名になってどうするの?』より 電話越しで一緒に食べた深夜のチョコモナカジャンボ 撮影/矢島泰輔
燃え殻『有名になってどうするの?』より 電話越しで一緒に食べた深夜のチョコモナカジャンボ 撮影/矢島泰輔
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「もしもし……」

 電話口の彼女はゴソゴソモゴモゴしながらそう言った。

「なにか食べてるの?」と僕が訊くと、「バレた。チョコモナカジャンボ」と白状する。

 僕は起き上がって、部屋を出る。アイスのコーナーで、チョコモナカジャンボを見つけて、レジまで持っていく。会計を済ませている間、彼女はケタケタと笑っていた。

「わたしさ、有名になりたかったなぁ……」

 彼女がフッとこの世から消えてしまったのは、その電話から数日後。本当にすぐのことだった。(中略)

 答えは常に一つじゃない。右か左か、上か下か、黒か白か、だけじゃない。保留もあれば、逃げもある。それどころか、答えは常に無限だ。

 選択肢がいくつかに絞られて見えたら、一旦全部傍に置いて、どこにもたどり着かない話でもすればいい。答えなんて出なくても、希死念慮を、時間を、強迫観念を、やり過ごせる。それでいい。

 だから、あの夜もどこにもたどり着かない、これから先の話だけをすればよかった。そうすれば、彼女はいまのこの景色を見れたかもしれない。

JAZZよりサザンが好きな喫茶店マスターの浅煎りコーヒー

「読まれたい日記」より

 行きつけの喫茶店のマスターが、昨日亡くなった。

 初めて店に入ったとき、マスターは慌ててジャズのレコードをかけた。僕たちはコーヒーを注文する。店内に程なくして、小さくウディ・ハーマンが流れ出し、美味しそうなコーヒーの匂いが充満した。

 そのとき、彼の奥さんが店に入ってきた。「外からジャズが聴こえてきたから、お客さん来てると思ったわ」と会釈をする。そして、「この人、ひとりのときはサザン聴いてるんです。お客さんが来ると、突然ジャズをかけ始めるの。キモいでしょ?」と手を叩いて笑った。(中略)

 かっこつけで村上春樹に憧れてるのに、ことごとく俗人っぽい彼のことが好きだった。奥さんの趣味のJAZZを一生懸命好きになろうとしているところも好きだった。線香をあげた後、奥さんに手渡されて彼の日記を読んだ。

〈何事もない日だった。来年には忘れてそうなくらい完璧な日。それはとても幸せなことだ。また近いうち、みさこと一緒に来れたらいいな〉