忙しい仕事の間に見せた“父親”の顔
武田さんがやりがいを感じた仕事の一つに挙げたのが『クローズアップ現代+』である。多様性、ジェンダー、働き方、MeToo運動……世の中の新しい考え方を伝えていく番組は新鮮だった。しかも番組担当者から指示されたことにもハッとさせられた。
「主語は“私たちが”ではなく、“私が”で話してほしい。“私はこう思う”と言ったほうが言葉として強くなるし、人々を動かすと」
それが如実に表れたのは、〈毒親〉を特集した回。武田さんが、自分の子育て経験を振り返り、子どもに対して「将来のためにこれを勉強したほうがいいんじゃないかと言ってしまう」と話すと、ゲストの1人にそれは押しつけにつながると指摘され、武田さんは、「反省することばかりですね」とひと言。
それを受けて、ゲストで女優の東ちづるさんが、母親が謝ってくれたおかげてスッとしたという話をしながら、考え込む武田さんを見て、「親って大変ですね」とフォローすると、武田さんの涙腺が崩壊した。
「1人の人間として受け止めるべきことだと思いましたので、本当にいい機会をいただいたと思いましたね」
“自分”をさらけ出した、見事な「私が」の話法になっていた。ただこう書くと、武田さんが厳しすぎる親のような印象を持つかもしれない。
しかし2人兄弟の長男、真太郎さん(仮名・30)は、
「割と自由で、放任ぎみで、口うるさくはなかったです」
と言う。よく覚えているのは、ほぼ毎夜読み聞かせをしてくれたこと。絵本だけでなく『ハリー・ポッター』シリーズなども読んでくれた。
「落語みたいに、登場人物の声色をかえてやってくれました。芝居がかっていて、楽しかったです」
沖縄から東京に異動したときは、陽子さんが沖縄での引っ越し作業が忙しいので、先に東京で生活を始めていた武田さんが、子どもの入学準備をした。陽子さんが回想する。
「思い出深いのは、上履きや防災ずきんを入れる布袋です。主人がミシンを練習して作ってくれました」
次男がサッカーのクラブチームに入っていたので、練習についていくだけでなく、WOWOWに加入し、スペインリーグを何試合も見て研究していた。その熱心さはNHKのスポーツアナも舌を巻くほど。またサッカーに集中するあまり、次男は塾に行けないため、中学受験に必要な教科を武田さん自身が参考書で勉強し、問題を作り、答え合わせと解説をした。結果、難関私立中高一貫校に入学できた。陽子さんいわく、
「主人はこれだと思ったことにグッと集中して覚えたりするのは得意でしたね」
この受験で父と次男の関係が悪くなることもなく、むしろ次男は父親が大好きになった。
PTA活動にも積極的に参加していた。息子の友達の母親にも驚かれるほど熱心で、読み聞かせをすることもあった。そんなこともあって、お母さんの友達も多かったという。
真太郎さんが在籍していた野球チームの練習だけでなく合宿にも行き、父親同士で仲良くなり、ソフトボールチームをつくったり、お酒を飲んだりする仲になることもしばしば。陽子さんはこう話す。
「子どもが大好きで、わが子だけでなくほかの家の子も可愛がっていました。いろんな人と仲良くなるから、気づいたら地域に溶け込んでいるという感じでした」
武田さんが、『クローズアップ現代+』や、現在MCを務める『DayDay.』(日本テレビ系)で見せる一般の人に近い感覚は、こうした普通の人との触れ合いの中で育まれてきたのかもしれない。


















