フリーになっても変わらない“現場主義”

「AIがニュースを読む時代、アナウンサーの立場は?」の質問に、自分自身がどう感じて何を思ったのか、そんな気持ちを込めて話すことは人間だからできること、と話す(撮影/山田智絵)
「AIがニュースを読む時代、アナウンサーの立場は?」の質問に、自分自身がどう感じて何を思ったのか、そんな気持ちを込めて話すことは人間だからできること、と話す(撮影/山田智絵)
【写真】大学時代、学祭でボブ・ディランの曲などを演奏する武田さん

 さて、NHKを辞めるときの話に移そう。

 理由を聞くとこう答えた。

「定年が見えてきて、アナウンサーという仕事の面白さを改めて感じられるようになったんです。管理職の道もあるけど、アナウンサーの仕事をもっと続けたいと」

 まだ見ぬ世界を見てみたいという欲求もあった。例えば民放の世界。CMやドラマってどうやって作っているのか。そうした好奇心もあった。

 ある日、当時大阪に単身赴任していた武田さんから、陽子さんに電話がかかってきた。NHKを辞めたいと言う。

「いいよ、好きなようにすればいいと思うよ、と言った記憶があります。いつも主人は決めたら変えないので」

 フリーになって、大手事務所に所属するのかと思いきや、自分の会社をつくったのも、武田さんらしい判断だった。

「大阪で町工場や商店の方に取材したんです。取引先との交渉も自分でやっていらっしゃる。僕の場合も事務的な業務はすべて所属事務所に任せて仕事に集中するという選択肢もありました。でも、中小企業の取材をして、景気がどうだ、インボイスがどうだと、何の実感もないのに言っていいのかと思ったんです」

息子に「番組を楽しみながらMCをしている」と言わしめた『DayDay.』で、誕生日を祝ってもらい満面の笑み
息子に「番組を楽しみながらMCをしている」と言わしめた『DayDay.』で、誕生日を祝ってもらい満面の笑み

 '23年にフリーになり、4月から『DayDay.』のMCになった。丸3年たって、変わらないところ、変わったところをチーフプロデューサーの大橋邦世さんに聞いた。

 変わらないところは、「誠実でまじめ、信念を持って時に頑固なところ」だという。

 実は『DayDay.』を引き受ける際、武田さんはある提案を示した。

「3月には地震・防災、8月には戦争をテーマにした番組を放送したい」

 地震・災害報道がライフワークになっている武田さんにとって、フリーになっても貫きたいテーマだったのだ。

「特に地震関連のときには、豊富な現場取材やボランティアの経験を踏まえて、番組作りに助言をくださいます。能登半島地震のときも避難所のトイレの惨状を教えてくださって、それが簡易トイレも含めて深掘りする番組につながりました」(大橋さん)

 最初の印象と違うのは、少年のような無邪気な一面を見せてくれるところだという。例えば『DayDay.』のテーマソングを書いた福山雅治さんのライブに番組の企画で出演したときの表情だ。

「ライブのために、ギターを新たに買って、ものすごくうれしそうに弾いていらっしゃった。それに“みんな盛り上がっているか~”と会場を盛り上げてました(笑)」(同)

 番組の公式TikTokでも、出演者と一緒に踊ったりしている。

 もう一つ意外な一面は、涙もろいところ。特に若者が懸命に頑張る姿に心打たれて涙ぐむ場面がよくあるという。

「番組では、高校生のダンス動画ナンバーワンを決める“LOVEダン”という企画があるんですが、高校生がどんな思いで踊っているのかを撮影したビデオを見て、よく泣かれています。若い世代へのリスペクトを持っていらっしゃるのだと思います」(同)

 そんな愛すべきキャラクターを持ちつつも、ベースには番組の〈お父さん〉的な安心感があると大橋さんはこう語る。

「それによって山ちゃん(山里亮太)や、コメンテーターのみなさんも自由に発言できるところもあると思います。何を言っても、安心と信頼の武田さんがうまく受け止めてくれると」

 長男の真太郎さんは、『DayDay.』で楽しそうにMCを務める父親の姿を見て、よかったなと思っている。真太郎さんはあるとき、父親がフリーになったのは、あの歌が関係しているかもしれないと考えた。小学生のころに家で毎晩のように歌っていた、ニール・ヤングの『Heart of Gold』(『孤独の旅路』)だ。

 真太郎さんはこの曲の歌詞の一節を、〈言葉で言い表せないものが、黄金の心を探し続けさせる〉と解釈し、〈言葉で言い表せないもの〉を探し続けるためにフリーになったのではないかと言う。確かに武田さんの歩みと重なる。おそらくこれからもずっとそれを探し続けるのだろう。

<取材・文/西所正道>

にしどころ・まさみち 奈良県生まれ。人物取材が好きで、著書には東京五輪出場選手を描いた『東京五輪の残像』(中公文庫)や、中島潔氏の地獄絵への道のりを追った『絵描き─中島潔 地獄絵一〇〇〇日』(エイチアンドアイ)など、多数。