とはいえ当初はまだ、表現は悪いが視聴者も「あのバラエティでヘタレな野呂ちゃんに、女優ができるの?」という興味だったと思う。役柄も本人にリンクするような役が多かった。2024年の『光る君へ』(NHK)に、本多力と逢引きする町の女役で出演した時は「大河女優の野呂さんですか?」とバラエティでいじられる場面も見かけた。まだたった2年前のことだ。

 しかし、その間にも『ザ・トラベルナース』(テレビ朝日系)、『アンメット ある脳外科医の日記』(関西テレビ)、『西園寺さんは家事をしない』(TBS系)、『なんで私が神説教』(日本テレビ系)、『初恋DOGs』(TBS系)など、立て続けに連ドラに出演。その実力は女優に転身組の先輩である小池栄子もメディアで認めるほどで、わずか数年で評価は爆上がりした。

野呂佳代の芝居勘

 近年は本人のイメージからは離れた役柄も演じるようになってきた。以前の野呂だったら、ボスに迎合する子分ママのイメージだったのが、『フェイクマミー』(TBS系)では進学校のボスママ役を演じて覆して見せた。

『リブート』(TBS系)では患者の顔を変えてリブートさせる形成外科医役で、ミステリアスな一面も披露して見せた。

 こうして各作品のムードに合わせて、その場で求められる芝居ができるのは、芝居勘がいいからではないか。「初めから女優になりたくてAKB48に入った」と話しているのもうなずけるのだ。

 そして満を持してメイン級の役を任せられた『銀河の一票』では、主人公の黒木華に、都知事選候補に仕立て上げられるスナックのママ役。政治などには疎いが、人間的な温かみがあるこの役は、まさに野呂のはまり役だろう。

 窮地に陥った黒木の心情を理解して「すごいねえ、茉莉ちゃんは」と言って励ます声には包容力が感じられるし、そんなしっかり者の野呂が、認知症で記憶を失っていく木野花に「私、誰? わかるでしょ?」と泣きながら問いかけるシーンは、視聴者の涙も誘う名場面だった。

 あのずんぐりとしたシルエットと人間性は安心感を与える。アイドルとしてデビューしたものの売れず、ヘタレ扱いをされて悔しい時期も長かったに違いないが、そうした経験が、セリフの説得力につながっている。それに加えた芝居勘の良さ。だから女優・野呂佳代は支持されるのだろう。

古沢保。フリーライター、コラムニスト。'71年東京生まれ。「3年B組金八先生卒業アルバム」「オフィシャルガイドブック相棒」「ヤンキー母校に帰るノベライズ」「IQサプリシリーズ」など、テレビ関連書籍を多数手がけ、雑誌などにテレビコラムを執筆。テレビ番組制作にも携わる。好きな番組は地味にヒットする堅実派。街歩き関連の執筆も多く、著書に「風景印ミュージアム」など。歴史散歩の会も主宰している。